意思の力
ファムとオリジンは対峙していた。既に剣を折られたファムに闘う術など残されていない。彼女の目的は、アリッサとマロを逃がすこと、そのための時間稼ぎをするだけだった。
「私の剣はまだあるぞ」
ファムはバルムンクのことを思い出した。これを使えば、勝負には勝てないでも、時間稼ぎ程度にはなると考えたからだ。しかし、その時、ファム、いやオリジンにとっても予想外の出来事が起きた。
「何だ・・・・?」
最初に気付いたのはオリジンだった。ファムの隣に、まるで彼女を守護するかのごとく、ミストが現れたのだ。既に契約者であるソルガが死んだというのに、ソレは確かに存在していた。
「ファムさん・・・・」
ミストが静かに口を開いた。それはソルガの声だった。
「ソルガなの?」
「ええ、どういうことか全く理解できませんが、きっと、この世で一番頭の良い人でも分からないと思います。この世に留まりたい。皆を護りたいという気持ちが、神様に届いたのかも知れません」
ミストの姿を纏ったソルガは、拳を構えた。そしてオリジンの元にゆっくりと迫った。
「人間の意思の強さは、時として、法則をも捻じ曲げるか。やはり貴様らをここで始末するのは正しい選択のようだ。貴様らは宿命を変える力を持っている。危険因子はここで絶たねばならない」
オリジンとミストが向かい合った。そして先に仕掛けたのはミストの方であった。彼はオリジンに向かって拳を突き出して、殴りかかったのだ。対する彼女も、拳を突き出して、ミストの拳とぶつかりあった。
拮抗した力同士のぶつかり合いは、強力なエネルギーを生み出す。二人の立っている大地がひび割れ、近くの木はなぎ倒されていた。近くにいたファムも、吹き飛ばされて、地面の上に叩きつけられた。
「うおおおおおおお」
ミストの拳がオリジンの拳を砕いた。そしてそのまま彼女のこめかみに拳がめり込んでいった。
「があ・・・・」
オリジンの顔が圧力で潰れて行く。彼女は寸前で、ミストの腹を蹴り、それを踏み台にして一気に距離をとった。
「はあ・・・・はあ・・・・」
オリジンは見た目以上にダメージを受けているのか、焦点の定まらない様子で、フラフラと左右に揺れ動いていた。
「何故だ。こんな痛みは初めてだ」
「悪いが、僕も時間がない。終わりにしよう」
ミストはオリジンに近付くと、再び拳を突き出した。
「くっ、速い」
オリジンは顔面を殴られると、そのまま地面に押し倒された。同時に地面が砕け、二人は大きな穴の中に落ちて行った。そしてミストの拳のラッシュが、オリジン目掛けて放たれた。
「がああああ」
オリジンの体が砕けて行く。しかし彼女の顔は笑っていた。
「私は「機関」に所属する者。この星の行く末を見られないのは残念であるが。後はアンジェリカに任せるとしよう」
オリジンの体が砕け散ると、青白い光が空に放たれていった。同時にミストの姿も既にそこには無かった。