神になる者
小さな小屋の2階には二人の女性がいた。一人は緑色の長い髪を腰のあたりにまで伸ばした。流麗な美女で、もう一人は、金髪のツインテールに、口には大きな、金色のリングの形をしたピアスが、口から顎にかけて貫通している、不気味な印象の少女だった。
「シメネス。この小屋から逃げろ。後は私が引き受ける。お前の神獣は戦闘向きではない」
「しかし、マザーがいないこの状況で、何処に逃げろと言うの?」
「マザーが好きな場所ぐらい知っているだろう。あの草原だ。町外れにあるから、行って来るんだ。恐らく、神に転生したアンジェリカは、まず最初にそこに向かうはず」
「分かったわ」
シメネスが小屋から出たのを確認すると、オリジンは窓に足を掛けて、外に飛び出した。
「わざわざ、私が出る羽目になるとは。面倒なことだ」
アインはソルガを抱えて、ファムとアリッサの待っている、町の外にまで戻って来ると、ソルガをそこに寝かせた。
「俺の神獣は、足りない部分を他の部分で代用することはできるが、傷を治癒させるような力はないんだ。こいつ、死にかけだぜ」
アインは珍しくシリアスな顔付きをしていた。それが伝染したのか、ファムもアリッサも、神妙な面持ちで、意識の戻らないソルガの姿を見守っていた。そこに、長く美しい緑の髪を靡かせながら、オリジンが姿を現した。あまりの速さに、三人がそれに気付くのには、僅かな遅延が生じていた。そしてそれこそが、アインの命取りとなった。
「三人か。私一人で十分だな」
オリジンはボソッとそれだけ言うと、白く長い右手で、アインの体を背後から貫いた。
「ごふ・・・・」
アインは何が起こったのか理解できなかった。あまりに速い一撃に、彼はただ、恐怖でも怒りでもない、全くの無感情のまま、血塗れになり、ソルガに覆いかぶさるように倒れた。
「新たな神、アンジェリカの誕生するまで時間がまだあるな。アンジェリカに降りかかる障壁は、塵一つとして残すわけには行かない」
「く、アリッサ下がっていろ」
ファムはライディーンの鎧を身に纏い、オリジンに向かって剣を振り下ろした。
「ふん・・・・」
オリジンは鼻で笑うと、右足を上げて、ファムの剣を根元から真っ二つに折ってしまった。
「な・・・・に・・・・?」
「死ね」
オリジンの指が、ファムの額を貫こうと狙いを定めていた。すると、突然、タリスマンがファムの肩の上に出現し、オリジンの指に噛みついた。
「ぐ・・・・」
オリジンは思わずバランスを崩し、地面に膝を突いた。するとタリスマンが、彼女のスカートのポケットに手を突っ込んで、六角形の結晶を取り出すと、それをファムに向かって投げた。
「何だ?」
ファムは結晶を受け取ると、その中で眠っている小さなマロの姿を見つけた。
「これは、マロだ。そうか、貴様がマロを・・・・」
ファムはオリジンを睨み付けた。しかし彼女もそれで怯むような器ではない。
「それがどうした?」
オリジンは地面にうつ伏せに倒れているアインの首を踏みつけて、そのままへし折った。そして彼の首に手刀を繰り出すと、マロのように、アインの体が小さくなり、結晶の中に閉じ込められた。しかし、マロの時とは違って、結晶の内部にはひびが入っており、すぐに砕け散ってしまった。
「私の能力は、あらゆる生物を結晶化して、さらにそこから魔力を奪うことができる。アンジェリカのために、私は世界各地の神獣使い達を結晶にし、彼女の計画のために必要な莫大な魔力を集めた。しかし、途中で死亡した生命体は、結晶にしても、このように、砕けてしまう」
「貴様・・・・」
「これは良い知らせだぞ。アインとやらはこの通り、既に死亡しているが。マロは結晶の状態を維持している。生きているということだ。彼の魔力を期待して、結晶化したのだが、使う前に、既定量の魔力が既にあったらしい」
ファムはマロの入った結晶を力強く握りしめると、金色の輝きとともに、結晶が砕け、マロがファムの前に出現した。しかし、眠っているのか、ピクリとも動きはしなかった。
「アリッサ・・・・」
ファムはアリッサの方を向くと、急に穏やかな顔付きになっていた。
「どうしたのよ?」
「今までありがとう。私の人生は、マロとアリッサのおかげで輝いていた。マロの心臓は動いている。きっと彼は生きている。だから私は満足だ」
「何を言っているの・・・・」
「私が闘う。時間を稼ぐんだ。だから、マロを連れてなるべく遠いところまで逃げて・・・・」
「馬鹿。そんなこと・・・・」
「行ってくれ」
ファムの悲痛な表情に、アリッサは彼女の決意を知った。そして、無垢な寝顔のマロを背中に背負うと、彼女の言葉通りに、町の反対方向へと走って行った。




