タリスマンの逆襲
「終わりだな。現時点で貴様を始末できたのは、ラッキーであったな」
タレスはアポカリプスをソルガに向けようとした。彼は自らの死を悟ったのか、眼をゆっくりと閉じると、最後の一撃を待った。
「辞世の句はあるか?」
「早く殺せ。今更、お前のようなゴリラ男の前で、何を言えと言うんだ」
「それが最後の言葉か」
タレスは、階段を降りると、ソルガを跨いで、彼を高みから見下ろした。そして止めを刺すべく、アポカリプスを持つ手に、力を加えたその時だった。赤いレンガのブロックが、タレスのこめかみにぶつかると、そのまま砕け散った。彼は僅かによろめくと、小屋の入り口に立っている、一人の男を睨み付けた。
「貴様は何者だ?」
「よお、ソルガとかいう名前だったよな」
現れたのはアインだった。彼はタレスを無視して、倒れているソルガの元に駆け寄ると、床に膝を突き、彼の傷口にそっと触れた。そしてすぐに、立ち上がると、今度はタレスの方を真っ直ぐに向いた。
「お前か。俺の仲間をこんなにしたのは・・・・」
「ふん、貴様は今、何かしたな?」
「ああ、これか」
ソルガの右肩の傷はいつの間にか治癒していた。アインの神獣、タリスマンの力である。ソルガの体にある、余分な脂肪を削り取り、それを消失した右肩の皮膚に代用したらしい。
「き、気を付けろ。そいつより低い場所にいると危険・・・・」
ソルガが言い終わるよりも早く、タレスの大足が、彼の体を蹴り飛ばした。
「ごふ・・・・」
吐血しながら、ソルガは壁に背中を強く血付けた。あまりの衝撃のせいか、彼の呼吸が一瞬止まったが、失神しているだけで、心臓は動いていた。
「低い場所か・・・・」
アインはタリスマンを肩に乗せると、顎に手を乗せて何か考え込んでいた。
(くそ、階段を降りるべきではなかったか。おかげで、アポカリプスが使えない。しかし、この階段を一歩でも上がれば、奴の位置は私よりも低くなる)
タレスは左足を後方に出して、階段の一段に上ろうとした。
「動くんじゃねえ」
アインは叫ぶと、タリスマンを右拳の甲に乗せて、タレスの顔面を思い切り殴り付けた。
「ぐはああああ」
タレスは唾液を吐きながら、そのまま背後の階段に後頭部を強打した。そしてその階段には、彼の血液がたっぷりと付着したのだった。
「どうした。お前、大したことないようだな」
「貴様、私を愚弄したな」
タレスは床に唾を吐き捨てると、倒れたまま状態から、跳躍して、一気に階段のてっぺんにまで上った。そしてアポカリプスを出現させ、それで空を切った。
「はあ・・・・はあ・・・・」
タレスは頭部から流れる血を気にしながら、アインに向かって、アポカリプスの剣先を向けた。その瞬間、アインはその場で、真上に向かって大きく跳ねた。
「何だ?」
タレスはポカンと不思議そうに口を開けていたが、すぐにアインの真意に気付いた。実は、この小屋には服を掛けるためのフックがいくつか設置してあり、その中には、タレスのいる位置と、全く同じ高さにあるフックも存在していたのだ。
アインは小屋の中で一番高い位置にあるフックに捕まると、手の平に突起物、例えるならば、大きな指にできるタコのような物を作って、それをフックに引っ掛けたのだった。
「貴様、そんな付け焼刃の策で、この私を倒せるとでも思っているのか」
「悪いけど、もう勝負は決しているんだぜ。さっき、あんたの顔面を殴った時点でな」
アインは得意気に笑うと、そのまま床に着地した。
「馬鹿な。自ら攻撃を受けに来るとは」
「じゃあ、撃ってみなよ」
「何だと・・・・?」
タレスはアポカリプスをアインに向けようとした。しかし何故だか体が動かない。タレスはそのまま白目を剝くと、背中から後ろに倒れてしまった。
「殴ったついでに、タリスマンで、お前の脳内に血液の塊を造って置いた。血液の流れが止まって、ようやく効いてきたらしいな」
アインは、倒れているソルガを抱えて、ボロい小屋から脱出した。