怒りのタレス
タレスは自らの拳を握り締めると、隣で眼を血走らせているサゴラスをじっと睨み付けていた。その殺気に気付いたのか、彼は急に笑いながら、咳払いをした。
「冗談ですよ。関係無い者を巻き込むわけないでしょう」
サゴラスは額の傷口から手を離すと、右手を動かして、自分の元に来るよう命令した。
「何をしているのだ?」
「キラービーの大軍で、バリケードを作ります」
蜂の大群が一斉に、窓から入り、サゴラスの周りに集まって来た。
「場所がバレてしまうぞ」
「構いません。奴等を始末すれば良いのです」
「なるほど、貴様の覚悟に敬意を評してやる」
タレスはた立ち上がると、階段を降り、屋根裏から出ると、さらに2階から1階への階段に腰掛けて、下の様子を見ていた。屋根裏のサゴラスと2階の部屋にいる二人を護るためである。
一方、ソルガは小屋の入り口に、ミストを連れて近寄ると、足で木製の扉を蹴って、小屋の中に入った。そして、2階を塞いでいる、タレスと鉢合わせになっていた。
「ここから先へは行かせない」
「敵は複数いたのか」
ミストはタレスを両目でとらえると、握られていた右手を開いた。そこには弱々しく、羽をばたつかせている、蜂が一匹いた。
「サゴラスの蜂か。それをどうする気だ。蜂はサゴラスの元へ集まっている。その蜂に、私を攻撃させるのは不可能だ」
タレスは、自分の横を弱々しく通り抜ける蜂を無視した。だが、それこそがソルガの策略であることに、まだ彼は気付いていなかった。
「人間は万物の霊長として振る舞っているが、それは間違いだ。何せ、たかが目にすら映らない、ちっぽけな細菌には勝てないのだからな」
ソルガの言葉に、タレスは嫌なものを感じていた。
「何かしたな」
「もう手遅れだ。僕の神獣ミストは、細菌を生み出すことができる。そして、今、細菌に感染した蜂を放った」
タレスの顔が青ざめた。建物内には、3人もの仲間がいる。
「だが、蜂は何ともなかったぞ」
「潜伏期間さ。細菌を操るのだから、その発症するタイミングも、自由に設定できる。発症時期は、蜂が、持ち主の元に辿り着いた瞬間だ」
ソルガの話が終わると、屋根裏の方からサゴラスの呻き声が聞こえてきた。タレスはしまったと思った。
「どうするんだ。助けないのか?」
「今更行ってどうするというのだ。それに、蜂自体は、奴の死によって消滅してしまう。冷静に考えれば、何も怯える必要など無かったのだ」
タレスの右手が青白い光を放った。そして黒い水晶のような剣が出現すると、その剣先を、ソルガに向けた。
「これが私の神獣、アポカリプスだ」
「剣型の神獣とは珍しいね。だが、接近戦は不利だと思わないのか?」
「不利だと。もう闘いは終わっている。貴様が、私よりも低い位置にいる時点でな」
タレスの言葉が終わらないうちに、ソルガの右肩が突然、バックリと割れた。彼の肉が削ぎ落とされて、水っぽい音と一緒に、床に転がった。
「がは・・・・」
ソルガはバランスを崩して、背後に倒れた。そしてあまりの出血量と痛みに、声も出せず、血走った眼でタレスを見上げていた。
「我が神獣、アポカリプスは、自分よりも低い位置にいる相手に、剣先を向けた時、問答無用で回避不能の攻撃を繰り出す。逃れる術は無い・・・・」