蜂の襲撃
ファム達は、アップルタウンの近辺に降り立つと、そのまま町の中に入って行った。空には無数の蜂が飛び交っており、町の住人達の慌てぶりを見るに、これが平常なわけではないらしい。
「神獣の仕業だな」
「この蜂の量、尋常じゃないですよ」
ソルガはミストを召喚すると、周囲の蜂に向かって、拳のラッシュを浴びせた。しかしあまりに小さいので、蜂の体には一発も当たっていなかった。それを見て、近くにいたアインが笑った。
「おい、あそこの奴は何をやっているんだ?」
アインの小馬鹿にした口調を無視して、ソルガはミストに蜂への攻撃を命じていた。すると、拳は一発も当たっていないというのに、蜂達は、全身から紫色の煙を放出しながら、地面の上にバタバタと落下して行った。
「ウイルスだ」
ファムはその現象を端的に説明した。
「ウイルスだと・・・・?」
「ああ、ソルガの神獣は、強力なウイルスを操る能力、こういう数の多い相手には最適化かもな」
「ほう・・・・」
ソルガはミストを連れると、周囲を念入りに観察した。
「皆さん、ここは僕に任せて下さい」
ソルガは言ったきり、ミストを連れて、町の中の奥へと消えて行った。
ソルガが町を詮索し始めるのと、同時期に、タレスとサゴラスは屋根裏に移り、窓の前に張り付くようにして、外の様子を伺っていた。
「サゴラスよ。町の住民には手を出すなよ」
「分かっていますよ。ただ、小さいとは言え、これほどの数を動かすというのは、労力が要りますね」
「何故、屋根裏に来たのだ?」
「簡単なことですよ。キラービーを操作している時は、私は非常に無防備なんです。恐らく、3歳のガキにも喧嘩で負けちまうぐらいにスキだらけです。隠れて攻撃する分には最強の能力ですが、見つかったら終わりです」
サゴラスは、双眼鏡を両目に当てると、窓の外にいるソルガの姿を見つめていた。
「この蜂の量は異常だ」
ソルガは、タレス達の潜伏している家の、すぐ近くにまで来ていた。最も、狙っていたわけではない。ほんの偶然である。彼は周囲を見渡すと、蜂の死骸を一匹掴んで、それをミストの顔に近付けた。
「ミスト、この蜂から漂う、魔力の匂いを感じ取るんだ。そこに僕を案内してくれ」
ミストは包帯に包まれた顔から、鼻だけを露出させ、クンクンとそれの匂いを嗅いでいた。
(ギルガ兄さんよ。見ているかい。僕はミストを使いこなしている。おかしな話だ。ファムさんは、いわば兄の仇だと言うのに、彼女の役に立っていると考えると、誇り高い気持ちになれる。勇気が湧いてくる)
ミストは匂いを嗅ぎ取ると、その場で雄叫びを上げた。そして小屋の方を睨み付けた。
「おい、サゴラスよ。あの神獣がこちらを見ているぞ」
「馬鹿な、早すぎる。タレス、あいつを追い払ってくださいよ」
「私にはオリジンの護衛という任務がある。蜂を使え」
「くそ、それができればとっくにしてます。あの神獣に、近付いた蜂が、どうしただか、勝手に死んで行くんです。これじゃ、話にならない」
サゴラスは歯をガチガチと鳴らしながら、ミストの姿をじっと観察していた。すると、ミストが近くの石を持って、それをサゴラスの見ている窓のガラスに向かって投げた。
バリンッという音とともに、タレスの隣にいたサゴラスの体が吹き飛んだ。何と、彼は石で額を割られたまま、背後の壁に背中から激突していた。そして額にめり込んだ石を取り除いた。
「おごおおお、痛、痛てええええ」
床には血で赤黒く染まっている石ころが落ちていた。タレスは静かな声で、サゴラスを落ち着かせようと宥めた。
「おい、大声を出すな。余計にヤバくなるぞ」
「痛いんだよ。馬鹿野郎。もうバレてる。くそ、私よりも若いくせに生意気な奴だ。こうなれば、手段は選ばん」
サゴラスは血走った眼で、額に右手を押し付けて止血をしながら、反対側の手で空中に円を描いた。蜂達に何かを指示しているようだった。そしてそれに呼応した一匹の蜂が、ミストの近くにいる、無関係の老婆の首筋に留まった。
「おい、サゴラス。あそこの老婆の蜂を取れ、刺さられしまうぞ」
「ふははは、それが良いんですよ。これは人質です。これからあのクソガキに、頭脳戦という奴を教えてやりますからね」
「貴様・・・・」
サゴラスの言葉に、タレスは自身の拳を握りしめていた。最も、その彼の変化に気付けるほど、今のサゴラスも冷静ではなかったが。




