止められない力
ファムとアインはバルド共和国に着くと、そのまま城に向かい、アリッサのいる王室へと向かった。
「アリッサいるか」
「ああ、あんたか」
アリッサは不機嫌そうに、頬を膨らませていた。どうやら何かが癇に障ったらしい。ファムにはそれが理解できずに、不思議そうに首を傾げていた。
「何を怒っているのだ?」
「マロが消えただの騒いでおいて、全く連絡しないなんて、あんた、デッドエンドに行ったでしょう?」
「ああ、行った」
ファムは悪びれる様子も無く答えた。アリッサは半ば呆れたような様子で溜息を吐くと、彼女に地図を渡した。
「あんたがデッドエンドにいたのは知っているわ。これを付けてたからね」
アリッサは、ファムの後ろ髪に触れると、何かを指で取り除いた。そしてそれはクローバーほどの大きさの葉っぱであった。
「通信草よ。これであんたの会話や、周囲の音を全部聞いていたわ。そして会話を元に、私達の敵の居場所も突き止めたのよ」
「何、どうやってだ?」
「アンジェリカという名の女性が、全国に何人いるか、バルドの人材を使えば簡単に調べられるわ。そして、アンジェリカの中で、デッドエンドに最近収容された女性が二人、そのうち脱獄したのが一人、そして、脱獄したアンジェリカは、やたらと素早い動きで、各地を転々としている。それを追ったのよ。そして、今、彼女が何処にいるのか。それはアップルタウンという、田舎の小さな村よ」
アリッサとファム、そしてアインはアップルタウンに向かうこととなった。旅支度を始めると、途中で、ソルガもやって来て、合計四人で行くこととなった。アリッサは竜小屋で、ドラゴノイドを四匹連れて来ると、それぞれが一匹ずつのドラゴノイドに乗り、空に旅立って行った。
ドラゴノイドとは、端的に説明すれば、騎乗用に品種改良されたドラゴンのことである。ドラゴンは太古の昔に滅び去っているが、ドラゴノイドは滅びる以前に、人間達の手によって保護されていたので、滅びずに済んだのだ。ドラゴンとの違いは、体が小さいことと、ブレス攻撃を失ったことぐらいだろう。
ファム達がアップルタウンに向かっていた頃、アンジェリカの元に更なる来客があった。
「あなたも来たのねサゴラス」
「約束よりも大分遅れちまい申し訳ない」
サゴラスは、色素の薄い黄色の髪に、顔には膿んだニキビがいくつもあった。そして床に座っているタレスの足を跨いで、窓から外の景色を見ていた。
「サゴラスどうしたの?」
「マザー、バッドニュースです。クソ野郎どもがこっちに向かってる」
サゴラスは舌打ち交じりにそう言った。
「そんな、予定よりも早いわ。さっさと魔法を発現させなければ」
アンジェリカはオリジンの方に視線を合わせた。彼女の不安な心を打ち消すように、オリジンは深く頷いた。
「最早、時間は無い。行くわよ」
アンジェリカは瞳をクワッと強く開くと、竜の首飾り、そして混沌の宝石の上に手をかざした。
「大宇宙よ。我が肉体を捧げる。見返りに、我を神聖なるそなたらの元へ誘え。宿命、因業、宿業、大難、無我、跳躍、運命、再会、宇宙の真理、そして何より、新世界のために、私は人の形を捨てよう」
アンジェリカの肉体を青い光が包んだ。そして小屋の屋根をぶち破ると、それは大きな光の柱となり、雲を突き破り、大気圏をも越えて行った。