監獄バトルロイヤル決着編
ドラゴンはアインの目の前に立つと、その皺だらけの顔を歪ませて笑っていた。
「何が可笑しいんだ?」
「済まない。お前さんの引き攣った顔が面白くてな。今話した通り、ワシは刑期をとっくに終えている。しかし、この監獄の外へ出ることができないのじゃ。結論から言えば、地縛霊ということになるのだろう。ワシは、20年前に、この場所で、老衰で命を落とした。散々人を殺めておいて、自分は老衰で死ぬなんて、つくづく勝手だと思うかね?」
ドラゴンは髭をヒクヒクと動かすと、ガラス張りの天井から青空を見上げた。
「死んだら解放される何て考え方は止めた方が良い。あの世も、この世も大して変わらん。あの世にも愚痴を言う奴はいるし、前向きな奴もいる。死んでいるくせにな」
ドラゴンは一通り、話し終えると、再び構えを取った。同じくアインもタリスマンを背中に乗せ、臨戦態勢に移っていた。
「来るか?」
「殺し屋じゃからの」
ドラゴンは床を蹴って、真っ直ぐにアインに向かって行った。
「うおおおお」
アインとドラゴンの拳がぶつかり合う。骨と骨が軋む。ドラゴンは足でアインの頭に蹴りを加えようとしたが、アインは後ろに跳んで、距離を置くことで避けた。
「爺、霊のくせに触れるのかよ」
「触れられなくもできるが、ワシは純粋な殺し合いがしたい。卑怯な真似はせんよ」
「変わった爺だ。その気になれば天下も取れるぜ」
「ふん、天下など興味無いわ。ワシが欲するのは経験と、そこから得る知識だけじゃ。富や名声は、死ねば残らない。貴族だろうと奴隷だろうと、死は平等じゃ。しかし、霊になって気付いたこととして、生前に経験したことと、この知識だけは死後も残るのじゃ」
ドラゴンは跳躍すると、壁を両足で蹴って、踏み台とした。そしてそのままアインに向かって、斜めからの跳び蹴りを放った。
「喰らえ、ワシの奥義じゃ」
「当たるかよ」
アインは右に逸れて蹴りを避けるが、ドラゴンはそのまま反対側の壁を両足で蹴り、再び蹴りを放った。まさか背後から追撃を受けると思わなかったアインは、後頭部に彼の跳び蹴りをもろに受け、床の上を滑って行った。
「ぐああ・・・・」
「止めじゃ」
ドラゴンは、仰向けに倒れているアインの顔目掛けて、手刀を繰り出した。
「決まった」
ドラゴンの手刀がアインの心臓の位置に丁度突き刺さった。そしてそのまま、奥まで指を突き入れると、一気にそれを抜き取った。そのドラゴンの指には真っ赤な血が付いていた。
「甘いぜ爺」
アインはクワッと眼を開けると、そのまま起き上がり、ドラゴンの顔面を思い切り殴り付けた。
「ごふ・・・・」
ドラゴンは殴られた衝撃で、大きく吹き飛ぶと、そのまま壁に激突した。
「何故じゃ・・・・?」
「俺の神獣、タリスマンの力で、心臓の裏に、もう一つ心臓を作っておいた。お前がやったのはダミーだったのさ。そして今の攻撃は、俺の素の力じゃない。タリスマンの力を借りて、腕の筋肉を増強したんだ」
「なるほど、今までで一番強い男じゃわ」
ドラゴンは戦意を失ったようだったが、もとより、幽霊である彼が死ぬわけはない。なので再び立ち上がった。
「まだやるのかよ・・・・」
「ほっほっほ、もう終わりじゃよ。死者と生者では、生者に不利じゃからな。ワシはここで降りるよ。なあ、構わんよな」
ドラゴンは、広間から出た廊下の突き当たりにいる、人影の方を向いてそう言った。ファムとアインは、互いに駆け寄ると、ドラゴンの話している先をじっと観察した。誰かがいる。見たところ、ほっそりとした女性のように見える。ドラゴンの言葉に呼応するかのように、女性が姿を現し、広間に向かって歩いて来た。