婚約破棄は多数決で決めましょう
婚約破棄かな?多数決かな?
改正:後書きに書いてあった、婚約破棄の有無は消去しました。
王城の、舞踏会が開かれている大広間。
煌びやかなシャンデリアが照らす大会場に、これまた煌びやかな人物が降り立った。
皆が振り返るほどの気品あふれる佇まいに、黄金に光る長い髪をなびかせ、大階段を降りて来たのは、
ジャコビー国、シュガー・ジャコビー第一王子。
彼の透き通るようなスカイブルーの目が、やさしく見つめる先には、婚約者のソルート・ペッパー侯爵令嬢ではなく、ミルク・ビネガー男爵令嬢。
シュガー王子は、ミルク男爵令嬢と、腕を組み、堂々と階段を降りてくる。
「な、なぜ、あの娘は誰?」「婚約者のソルート侯爵令嬢はどこ?」「血迷ったか、シュガー王子」
貴族たちの、こそこそ話は、さざ波のように大きくなり、驚愕、困惑、好奇な目は会場全体に広がった。
そんな視線をものともせず、シュガー王子は、大会場の中央に降り立つ。
「みなの者よく聞け、私はここに宣言する。婚約者ソルート・ペッパー侯爵令嬢と婚約破棄し、このミルク・ビネガー男爵令嬢と婚約する」
「正気か!」「なんて愚かなことを」「ペッパー侯爵家が黙ってないぞ」
ドドドドーと、さざ波が、大波になり貴族達を駆け巡る。
皆の視線は、大会場入り口近くで、壁の花になっていた、ソルート・ペッパー侯爵令嬢に注がれた。
これまで、静観していたソルート侯爵令嬢が一歩前へ
シュガー王子の目の色と同じ、スカイブルーのドレスを纏った、紅色の縦巻髪、真っ赤な口紅をひいた、無表情のソルート侯爵令嬢。
「私は、かまいません。国王と父を説得して下さい」と言い、深く頭を垂れて大会場を後にする。
大会場は、静まりかえった。
ソルート侯爵令嬢から反論の言葉は一言もなかった。
婚約破棄を宣言した、シュガー王子も、隣のミルク男爵令嬢も、呆然としている。
「意義あり!」
大会場の端から、大きな声が響いた。
そこにいたのは、ミルク男爵令嬢の婚約者、ソゼ・カイザー男爵令息。
ビネガー男爵家へ婿入り予定の、カイザー男爵家3男だ。
「私は、ミルク・ビネガー男爵令嬢に、婚約者として異議を申し立てます。シュガー王子の婚約宣言は重複婚約であり、一夫一妻制の我が国では、到底受け入れられるものではございません。よって、審議にかけ多数決での判決を希望します」
昔、ジャコビー国は、王や大貴族が私利私欲をむさぼり、平民や商人に対して、人を人と思わぬ、理不尽な要求を繰り返して、虐げていた。
そのうち我慢の限界にきた一部の民が立ち上がり反乱を起こした。領主は武力で反乱を静めたものの、小さな火種は、各領地から立ち上がり、国全体を巻き込む大反乱となった。
反乱により国が滅びかけた時、当時、国をまたぐ大商人ヨドーヤ・ジョアンが、大貴族と領民の間に仲裁に入り、反乱を収めた歴史がある。その時用いた解決方法が多数決。
証言や証拠を集め、審議を重ねたのち、まったく関係のない他国の民に、多数決で判定をゆだねる方式だ。
今回、意義を申し立てたソゼ・カイザー男爵令息、申し立てられたミルク・ビネガー男爵令嬢は、二人の婚約に関する、証拠を1か月で集め、審議会に提出。
審議会は、世界地図に矢を放ち、矢が刺さった地域の人々に、多数決してもらう。ダーツの旅だ。
◇◇◇
「あらまー。綺麗な人達が来なさった」「何事じゃろ」「見に行こかい」
続々と農作業していた村人たちが、村長の家に集まってくる。
ここは、ジャコビー国から東に、5000kmの位置にある、小さな島国ジャポン。
小さな島国の、そのまた末端にあるトントロ村。
小高い丘の上に建つ村長宅玄関前に、ジャコビー国から、シュガー王子、ソルート侯爵令嬢、ミルク男爵令嬢、ソゼ男爵令息、審議会議長。記録係。その他、警護や従者、侍女など大所帯が、転移石を使用し転移してきた。
たちまち、村長宅は人でごった返し、入れなくなったため、急遽、村長宅の玄関前、野外での審議会開催となった。
爽快な青空が広がる、心地良い風が吹く田園地帯に、各家から不揃いの椅子と机が持ち運ばれ、審議会の準備が整えられる。
多数決するのは、この村の村長と、野次馬で集まった10名ほどの村民だ。
「では、審議会を始めます」
審議会議長の宣言で、審議が始まった。
「今回、意義を申したてたソゼ男爵令息からおねがします」
「はい、私はここにいる、ミルク男爵令嬢と3年前から婚約を結んでおります。しかし、ミルク男爵令嬢は学園でシュガー王子と親しくなり、私と婚約解消することなく、シュガー王子と婚約宣言しております。これは重複婚約です。
私は婚約してからの3年間を、領地でビネガー男爵に教えを請いながら、領地の発展の為に尽くしてきました。これも、愛するミルク男爵令嬢と結婚し幸せな家庭を築く為。私はあきらめきれません。シュガー王子とミルク男爵令嬢の婚約宣言の撤回を求めます」
「では、意義を申し立てられたミルク男爵令嬢、反論をおねがします」
「はい、私は学園で、ソルート侯爵令嬢にいじめられ、心身共に衰弱している所を、シュガー王子に救って頂きました。不安の強い私に寄り添って支えて下さったシュガー王子。私達はいつも間にか恋に落ちておりました」
シュガー王子と、目に涙を溜めたミルク男爵令嬢は、手を取り合い見つめ合う。
「ここに、ソルート侯爵令嬢による、私への嫌がらせの数々を記した日記があります。怪我をした時の診断書と、いじめを目撃した者達の証言と一緒に提出させていただきます」
「では、シュガー王子とミルク男爵令嬢が親しくなるきっかけを作った、ソルート侯爵令嬢、何か意見ありますか」
「はい、私は神に誓って、ミルク男爵令嬢をいじめた事はございません。
ミルク男爵令嬢が怪我したと訴える日、私は学園にいませんでした。証人もおります、証拠資料を提出しますので、ご確認下さい」
「ソルート侯爵令嬢!ミルク男爵令嬢が嘘をついていると言うのか、こんなに可憐で、やさしく、魅力的な女性が嘘をついているわけがないだろう。いつもツンとしていて、隙一つも見せない、鉄仮面のようなお前より、素直で感情豊かなミルク男爵令嬢のほうが信頼に値する」
「では、ミルク男爵令嬢と婚約宣言したシュガー王子、重複婚約について説明を願います」
「ミルク男爵令嬢に、すでに婚約者がいることは知っていた。だが、守るべき愛する人がいじめられている時に、駆け付けつけもせず、心身衰弱させたまま放置するなんて、本当に愛しているならそんな惨いことはできないはずだ。ソゼ男爵令息はビネガー男爵家の実権を握りたいだけで、ミルク男爵令嬢を本当は愛していない。愛のない結婚をするより、愛し合っている私達が結ばれた方が幸せになれる」
「シュガー王子は私を励まし、慈しみ、愛して下さった。私とシュガー王子は運命なのです。誰にも引きはがす事はできません」
シュガー王子とミルク男爵令嬢は、熱い抱擁を交わしている。
その後も、審議は続き、ミルク男爵令嬢がソゼ男爵令息に手紙で現状を訴えた事がなかった事や、ミルク男爵令嬢がいじめの目撃者として提出した証人は真っ赤な嘘だった事など、証拠を検討した結果。明らかないじめはなく、ミルク男爵令嬢が怪我をしたことも偶然であり、ソルート侯爵令嬢によるものではなかった事がわかった。
だが、ミルク男爵令嬢が、ソルート侯爵令嬢による強い眼差しや、言動で、心を衰弱させてしまったことは日記から読み解く事ができ、絶対にいじめがなかったとは、断言できない結果となった。
「では、傍聴席のみなさん。質問はありますか」
「はい、審議会議長様、質問いいですか」
村人の女性が手を上げて質問する。
「シュガー王子とミルク男爵令嬢はお互いに婚約者がいることを知りながら愛し合った。これって、浮気ですよね。シュガー王子とミルク男爵令嬢は、お互いの婚約者に謝りましたか?」
「謝る?バ、バカを言え。元の原因は、愛していると言いながら心身が衰弱している婚約者を助けに来ない、ソゼ男爵令息の行動と、嫉妬しミルク男爵令嬢に嫌がらせをしたソルート侯爵令嬢が悪いのだ。何故、私達が謝る必要がある?」
シュガー王子が反論する。
ざわざわざわざわ・・・。
「でも、浮気ですよね。どんな理由を並べても、浮気ですよね」「そうよね、浮気よね」「確実に浮気よね」「知っててお互い浮気したのよね」「反省なしなの」「最低」村の女性達から声が上がる。
「俺は、母ーちゃんに内緒で街のガールズバーに行ったのがバレた時は、パンツ一丁で、家から放り出されたぞ。半日家の前に正座させられて、それでやっと家に入れてもらえて、謝る事ができた」
「謝ってないって事は、話し合いもしてないのか?」「マジで」「正気か」「俺にはできねー」
村の男性達から、驚愕と憐みの視線がおくられる。
「では、多数決にまい「ちょっと待った」
審議会議長の発言を、ソルート侯爵令嬢の声がさえぎった。
「審議会議長、発言よろしいですか。ありがとうございます。
私、婚約破棄を言い渡されてから、ずっと心がモヤモヤしておりました。これは私がシュガー王子を取られた悔しさなのか、繋ぎとめれなかった後悔なのか、原因がわからなかったのです。
でも、今、村人達の話を聞いていたら、腑に落ちましたの」
ソルート侯爵令嬢は、満面の笑みでシュガー王子を見つめ、
「私は、私の尊厳を傷つけた事をシュガー王子に謝ってほしかったのです。
この村の男性は、浮気をした場合、パンツ一丁で、家の前で反省するようですよ。
どうでしょうシュガー王子、ミルク男爵令嬢の為にひと肌脱いでは。
このまま、多数決しても、ソゼ男爵令息の勝ち。婚約宣言は撤回されてしまうと思いませんか?」
シュガー王子に、村人達の視線が刺さる。隣にいるミルク男爵令嬢が涙目が訴える。
「むむむ、わかった。ひと肌脱ごう」
シュガー王子は、その場でパンツ一丁になり、正座した。
◇◇◇
「私は、何をやっているんだ」
シュガー王子は空を仰いでつぶやいた。
おおらかな春の日差しが降り注ぎ、小鳥がさえずり、蝶々が花から花へと舞い踊る、村長宅前の広場。
黄金に光る長い髪を風になびかせ、パンツ一丁で、1人で正座しているシュガー王子。
パンツ一丁で正座を開始した時は、隣にミルク男爵令嬢。
ソゼ男爵令息、ソルート侯爵令嬢、審議会議長、村人達もいて、反省する俺を遠巻きに見ていた。
「みなさま、審議の為にお集まりいただきありがとうございました。本日の審議会は終了しました。
私の気が済むまで、シュガー王子には反省していただきます。
わざわざ、作業を止めて来ていただいた村の皆様には、お土産をご用意しました。美味しいいクッキーをお持ち帰り下さい。
他の皆様は、美味しい紅茶を侯爵家から持ってきましたの、皆さまお茶にいたしましょう」
ソルート侯爵令嬢の一声で、審議会は解散。皆、村長宅に入って行く。
俺の隣に残ったのは、ミルク男爵令嬢のみ、遠くに近衛兵が1人立っている。
ミルク男爵令嬢は、「私の為にありがとう」「あなたは最高の婚約者だわ」など、話していたが、そのうち話す話題がなくなり、無言。
隣で、爪をいじり始めた。
村長宅の裏から、楽しそうな声と音楽が流れてくる。
そわそわしだしたミルク男爵令嬢。我慢ができなくなったのか
「ちょっと熱いわ」「白い肌が日に焼けちゃう」「ちょっと日傘取って来るわね」と独り言を言って、立ち去り、戻ってこない。
1人。おだやかな風に吹かれてパンツ一丁で座っている私。
どれだけ、座っているだろう。
小高い場所にある村長宅から、田園風景が見える。
今は、春の田植えの時期。村人たちが腰をかがめて苗を一本一本植えている。
その隣では、牛に水路を引かせる村人がいる。
近くの家の煙突から煙が立ち、美味しいパンの焼ける匂いがする。
遠くから、楽しそうに笑い合う子供の声が聞こえる。
座っている私の手に、バッタがとまった。
「私は、本当に何をやっているんだ」
シュガー王子は自分の手を見つめて、つぶやいた。
1人で座り続けている所に、後ろから足音が近づいてくる。
振り向くと、そこにはソルート侯爵令嬢が水の入ったコップを持って立っていた。
「すまなかった」
私は、自然と頭を下げていた。
「何に対しての謝罪です?」
「”君”を軽んじてしまった事だ」
「うふふ。”お前”ではなく、”君”なのですね」
「これは、始めからすべて君が仕組んだのか?」
「さあ、どうでしょう。秘密です」
「君は、私を丸裸にして、”ただの人”にした。これからも私が道を外したら、正して欲しい」
「ふふふ、都合のいい人」
「君は、私が婚約破棄を宣言した時、”私はかまわない”と言った。”承知しました”とは言わなかった。
まだ、私に望みはあると思っている、違うか?」
「さあ、どうでしょう。国王と父を説得して下さい」
好評なら、ミルク男爵令嬢とソゼ男爵令息のその後を書きます。
今回は説明文章多目で、飽きさせず読んで頂けるかチャレンジ作品です。
感想いただけると幸いです。
お付き合い下さりありがとうございました。




