【番外編】どろぼうひげのエリー
幸せな令嬢の話(通称:さすクラ)シリーズ
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の5作目、番外編です。修道院に行った後のエリーの話です。これは単体だとたぶん面白味がないので、4作目の「無敵のお嬢様」を読んでからのほうが楽しめると思います。
「あっ、どろねえちゃん!」
孤児院の子供たちが、その声にワッと歓声をあげて『どろねえちゃん』と呼ばれた修道女に向かって駆け出す。
「どろねえちゃん! 今日は何のお話をしてくれるのー?」
「こないだの、エリーちゃんのお話の続きが聞きたいー!」
「わたしもわたしも、続きが聞きたいー!」
修道女は、優しく微笑むと、「じゃあこのあいだの続きを話しましょうか」と言って、子供たちの背中を押して部屋に戻らせ、「ちゃんと座っていい子にしないと、お話はしませんよー?」と言った。
子供たちは、素直に座ってわくわくした顔で待っている。
「前はどこまで話したっけ?」
「エリーちゃんが、お城に住むことになったとこまでー!」子供たちが元気よく答える。
「うんうん、本当はお城に住むお姫様のはずのエリーちゃんが、お城から離れて暮らしていたのは、どうしてだったっけ?」
「呪いー!」
「いじわるな魔女が、呪いをかけたからー!」
「そうそう。そして、その魔女が死んだので、エリーちゃんはお城に入ることができたの」
「よかったー」
「エリーちゃん、よかったねー」
「でもお城には、もうひとりお姫様がいたの。エリーちゃんのお姉様」
「えー!」
「お姉様は、小さい時からお城暮らしをしていたから、きれいなドレスを着ていて、お城の使用人とも仲良しで、王子様と婚約もしていて、とても幸せそうだったの」
「なんでー?」
「エリーちゃんはみんなに『呪いの子』っていじめられてたのに…」
「姉妹なのにそんなに違うなんておかしいよ!」
「そうなの。エリーちゃんも『お姉ちゃんずるい』って思ったの。だからお姉ちゃんに、たくさん意地悪をしたの。毒を飲ませようとしたり、階段から落とそうとしたり…」
「え…」子供たちがどんびく。
一緒に聞いていた孤児院の職員もどんびく。
「馬車が壊れるように仕組んだり、高いところから植木鉢を落として殺そうとしたり」
「いやちょっとちょっと待って子供にそんな話!」職員があわてて止めに来た。
「その結果、エリーちゃんは馬車から落ちてひどいケガを負ったのよ」
子供も職員も、どうしていいかわからなくて黙る。
「みんなも覚えておいてね。いくら自分がつらい思いをしたり、みじめな思いをしたからって、人を傷つけてはいけないの。エリーちゃんの不幸は、お姉様のせいじゃない。お姉様を殺したからって、自分が幸せになるわけじゃないのよ」
「どろさん…」なんか、いい話になりそうだから止めなくてもいいかな、と職員が思い始めた時。
「でもね、一番大事なことは…」
ごくり。その場にいる職員も子供も黙って聞き入る。
「世の中には、手を出しちゃいけない人間がいるってこと」
「……」みんなが『えっ?』という顔になる。
「世の中には、計り知れない能力を持った人間がいるの。10回殺そうとしても失敗した時点で、気づかなくちゃいけなかった。鈍感は罪なのよ」
ぽかんとする子供たちを、職員たちが「ハイハイみんな、お話は終わりよー! どろねえちゃんにごあいさつしましょう!」と言って正気に返らせた。
「いいわねみんな! 10回かわされたら、その時点で負けを認めるのよー!」と、まだ騒いでいる修道女を、職員が部屋から押し出した。
どろねえちゃん…どろぼうひげのおねえちゃんは、見た目がおもしろいので子供に人気があるのだが、どうもさっきのように話が脱線することがある。「お話の主人公、いじめられて育ってるから、シンデレラの話だと思ったのに全然違ったわー」と、職員はため息をつくのだった。
母親は、孤児院の廊下で掃除をしながら聞いていたので「子供たちに笑顔で語れるほどに強くなって……良かったわ」と嬉しく思っています。
8月9日、[日間]コメディー〔文芸〕で1位をいただきました。
皆様に応援されてる気がしてとてもうれしいです! ありがとうございます! ふかぶかぺこり。




