「確かに私は病弱な幼馴染ですが、貴女そんなに勉強サボってて、本当に侯爵夫人になれるとでも?」
名前を借りました
フィクションです
婚約者ジーメンスとのデートの日、ジーメンスの病弱な幼馴染ラジアンから『熱が出たから見舞いに来てほしい』と、使いの者が呼びに来た。
これはよくある、病弱と偽り婚約者を狙ってしょっちゅう呼び出すやつでは!?
私ファラドの婚約者を狙う不届き者め!撃退してやるわ!
私は、お茶会に行ったり、友人と遊びに行ったりが忙しくて、学園の成績は下の方。
でも、私は侯爵家子息ジーメンスの婚約者。夫人にさえなってしまえば、どうにでもなるわ。
幼馴染の分際で、私の婚約者を呼び出すなんて…思い知らせてやるんだから!
私は、ジーメンスの家のキルヒホッフ家の夜会に、婚約者として招待された。
そこには、憎き病弱な幼馴染がいた。
「貴女!いつも私の婚約者を病弱だからと嘘ついて呼び出して!許さないわ!」
私は先制攻撃を開始した。
「確かに私は病弱な幼馴染ですが、貴女そんなに勉強サボってて、本当に侯爵夫人になれるとでも?」
病弱な幼馴染が言った。
「え?」
何を言っているの?
「私はジーメンス様に治癒してもらっていました。普通に患者なんですが、貴女は、私に治癒を受けずに死ねと仰るのですか?」
病弱な幼馴染がまた言った。
「え?」
何の事?
「ジーメンス様が治癒師なのをご存知無い?」
「え?」
戸惑っていると、横から声がした。
「貴女、学園の成績も悪いし、遊んでばかりだけど、ジーメンスの婚約者ならきちんと侯爵家に来て勉強なさいよ」
見知らぬ女性がいた。
「貴女誰よ!」
「ジーメンスの姉ジュールだけど」
「え?」
確か婚約者の姉は、嫁に行ったとかで、婚約の挨拶の時には会っていない。
「貴女が遊んでばかりだから、代わりにラジアンを教育していたわ。貴女との婚約は破棄よ」
ジュールが言った。
「は?」
「その成績で侯爵夫人は無理よ。ラジアンは、ベッドの上で勉強していたわよ。貴女は健康で学園にも通っているのに、成績が悪いってどういう事かしらね。侯爵家に嫁に来る意味を分かっているのかしら?」
ジュールから呆れたように言われた。
「そんな…今からやれば…」
意味って何だろう?
「あと半年で、その空っぽの頭に詰め込んでも、基礎ができてないから無理よねぇ…」
「ジーメンス様は優秀だから…」
私は、夫人だし…
「ジーメンスが優秀でも、侯爵夫人の仕事はできないわね」
「今から間に合わせます!」
侯爵夫人の仕事って何だろう…?
貴族の夫人は、沢山の豪華なドレスや宝石に囲まれて、お茶会や夜会を楽しむだけでしょ?簡単よ。
「性格はすぐには変わらないわ。嫁に来ても、遊びほうけていたら困るから、貴女はお断りよ」
「そんな!ジーメンス様!」
私はジーメンスに助けを求めた。
婚約者なんだから私を守りなさいよ!
「お茶会のたびに、私が『病弱と嘘ついた幼馴染の見舞いに行く偽善者』だと周りに言っていたのだろう?」
それまで黙っていたジーメンスが言った。
「どうして!?」
何で知ってるの!?
「病弱は本当だし、私は治癒していた、と噂を聞いた全ての人に説明して回ったからね」
「え?」
「嘘の噂を流すなんて最悪だ。嫁に来るはずの侯爵家を貶めるなんて、頭がおかしいのかな?」
「そ…そんなつもりは…」
本当の事を言っただけだもん。
「婚約破棄したかったから、そんな嘘の噂を流したんだろう?これで願いが叶ったね」
「違います!」
「侯爵家に無礼を働いたんだ…既に婚約破棄の書類は提出したよ」
「なぜ!?私は何も聞いてないわ!」
私は驚いた。婚約破棄!?
「当主のサインさえあれば、手続きは完了だからね」
「そんな…!」
私は愕然とした。私は悪くないのに、婚約破棄?
「これ以上醜態を晒すな!」
両親にドナドナされて、私は去るしかなかった。
私は、両親から叱られ、領地の邸で暮らし、一生領地から出る事が出来なくなった。
大好きなお茶会に行けないなんて最悪よ!!
ジーメンスは、病弱な幼馴染と結婚したらしい。
病弱な幼馴染に、婚約者を奪われた!
やっぱりそれが狙いだったんじゃない!!!
復讐したかったが、領地から出られない。
一生恨んでやる!!!!!
全く反省していないどころか、何も悪くないと思っている元婚約者は、私ジーメンスと幼馴染のラジアンを恨んでいるらしい。
何故知っているかというと、我が家からも監視をつけているからだ。
…現在の婚約者であるラジアンを傷付けられたら嫌だから。
元婚約者の事は大切にしていたつもりだ。
手紙や贈り物も送ったし、エスコートもした。
私が治癒師なのを知っていると思っていたから、患者の治癒に行く、と必ず言ったのに、ただの見舞いだと思われていたなんて…
人の話を聞いてくれよ…
普通に考えて、婚約者より幼馴染を優先する訳が無いのだ。
家同士の契約なのだから。
自分を、小説の主人公だとでも思っていたのだろう。
元婚約者が行ったお茶会で毎回『病弱と嘘ついた幼馴染の見舞いに行く偽善者』と私を侮辱していたと友人から言われた時は、本当に驚いた。
元婚約者の両親にも、私が治癒師なのと、嘘の噂を流している事を報告したが、一向に改善されなかった。
婚約破棄は、当然の帰結だろう。
よく、侮辱した私の嫁に来れるな。
侯爵家に来て夫人教育を受けろと何度も手紙を送ったが、一度も来なかった。
嫁に来る気が無いのだと思われても仕方ない。
それに、学園の成績も悪いし、しょっちゅう遊び回って、ドレスや宝石を買い漁っていた。
金遣いが荒い女に、侯爵夫人は務まらない。
領民の税なのだ。経済は回さないといけないが、ドレスや宝石だけ買えば良いというものでもない。
それが分からないなら、侯爵夫人は無理だ。
私も、両親もそう判断し、婚約破棄をした。
元婚約者の家から慰謝料ももらった。
嘘の噂を流したのに、娘に何の対処もしなかったからだ。
きちんと教育しなかったから、いけないのだ。
我がキルヒホッフ家から睨まれて、元婚約者の家も肩身の狭い思いをしているらしい。
娘の教育に失敗したのだから、当然だ。
それに引き換え…
ラジアンは、ちょうど出たばかりの治療薬が効いて、体調が良くなっていった。
それからラジアンは子爵家なので、身分の釣り合いが取れるからと婚約した。
姉上が、見舞いがてらマナー教育や夫人教育をしてくれていたようで、落ちた体力を戻しがてら、我が邸に勉強に来ている。
学園には通っていないが、学園卒業程度の学力になるように、ずっと勉強していた。
治癒が終わった後に「分からない所を教えて」と言われて「寝なさい」と注意したほどだ。
今、元婚約者の時とは違って、穏やかな日々を送っている。
噂を訂正するのも大変だったのだ。
侯爵家に嫁入りする意味が分からない者に、妻は務まらない。
ラジアンは、きちんと妻の務めと責任を果たせるように、と努力している。
頑張り過ぎて体調を崩さないか心配なくらいだ。
「ラジアンが婚約者になってくれて良かったよ」
「ラジアンが治癒してくれていたお陰よ。ありがとう」
可愛い事を言うラジアンを、私はしっかりと抱きしめた。
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