第四話『反撃の狼煙』
花園彩花——それが今しがた再会した少女の名前だ。しかし、その少女は私の知っている特徴と大きくかけ離れていた。
それは‥‥‥。
「えっと、取り敢えず一つ。質問だけさせて。何で髪の色が変わってるの?」
雅からしたらその髪色は違和感そのものでしかなかった。あり得るはずがない。元々の髪色がパールのように光り輝く純白だったというのに劇的に髪色が変化するはずなど。
砂糖ちゃんがまだご存命ということはこの時代は前回同様、江戸時代なはず――、となると水色に染める技術など実在するはずなどない。まずはちょっとしたことからでも疑問を持つ。
それが後々役に立つこともあるかもしれない。そんな風に考えて任務に取り組むことがこの任務を遂行するにあたって一番大切な心掛けである。無論、現地でのコミュニケーション能力も大切なことは言うまでもない。
「あ~、そのことについて、ねぇ‥‥‥。うん、これは本当にわたしも分からないんだぁ。ずっとこんな真っ青な湖で暮らしてるからなのか、それともぉ、この身体の影響なのかぁ——」
唐突に先程の声色とは違って溶けてしまいそうなほど甘ったるい声で話し始めて困惑するが、彼女自身もこの変化に思い当たる節はないらしい。
だが、恐らくは彼女にとってあの日の出来事による変化が大きいらしい。本人は無自覚なのだろうが、あからさまに声色が最後の一言だけ重くなっていた。そんなところは未だに変わっていないようで安心した。
あの甘ったるい声がキャラ作りか何なのか、ものすごく気になるところではあるが、敢えて聞かないようにする。その方が言葉で上手く言い表せないが、なんかいい。
「あの時は大変でしたよね。っていっても私は何もしていませんでしたが‥‥‥」
噓である。彼女は私より先に全速力で湖に辿り着き、最後には溺死するという運命が待ち受けているという定めになっていた。それを謙遜して何もしてないとは、この数年間で中々のことが起きたのだろう。
何だか本来の話題を大きく曲げてしまった。ここは上手く軌道修正しなければ。
「でも! 水色に染まってる彩花ちゃんもめっちゃ、可愛いよ。ね、砂糖ちゃん⁉」
「ですよね‼ 雅さんもそう思いますか! 以前の透き通るかのような純白の髪も、彩花の儚げなところを映し出していて良かったけど、水色になってからはどんな色にも染まれる色だった白が一つの色に定まり、新しい生活を進んでいくという希望が現れたみたいで‥‥‥というか、元々、両目に真珠みたいな目を二つ持っていたところに水色が入ることでその対比がいい! そして水色、ってまず可愛いの塊ですよね。元々持ってる彩花の可愛さ×水色の持つ可愛さが組み合わさったらそりゃ可愛いに決まってますよね! あと、髪型変えてロングにしているのが人魚の鱗の神秘的な感じと合って美人になってるところとか! それから‥‥‥」
その言葉を聞いた彩花は完璧な赤面を作っていた。
「もうっ、まぁた言葉が上手いんだからぁ。わたしに執着するより、他の人と恋愛したほうがいいんだから」
そう――、黒雲砂糖は花園彩花のことが大好きだった。以前、初対面で出会った雅のことを初手不審者と呼び、嫌がらせを何度も繰り返すという悪い虫が付かないようにする害虫駆除ハンターのような親みたいだった。
彩花には両親が不在となるため、彼女は親代わりのような存在だった。まぁ、向いているのは慈愛ではない愛情なのだが。
「またそうやってごまかすというのか。私の愛する気持ちは本物だというのに!」
情熱的な告白を適当に流され、その怒りから、彼女は彩花へと手を伸ばす。そして――、顎を少し上げるというどこで学んできたのかわからないキザな仕草とともにその言葉をかけた。
「あー、盛り上がっているところ、申し訳ないんだけど。そろそろ本題に入ろう? 紛らわしくさせた
私が悪かったから」
「ぬ、これからだというのに‥‥‥。おのれ、鬼どもめが」
「え? 鬼、何それぇ?」
まだ何もすり合わされていなかったらしい。一人でに燃え上がっている砂糖ちゃんの代わりに私が説明するとしよう。
「なんでかは分からないんだけどね。村に行ったら誰もいなくて。それで村に入ったら鬼がいたってわけ。もしかして、昔からこの集落には鬼が現れる‥‥‥、だなんてことは流石にないよね?」
「うん、流石にね。だけどぉ、それめっちゃ困らなぁい? 水中に住むわたしからするとどうなってもいいんだけどぉ、砂糖ちゃんが困るってのはいただけないよねぇ」
村に対して何の思い入れもない彼女の意見は至極当然だが、やはりそこに砂糖が関わってくると、放っとけないらしい。両想いじゃん、——もう付き合えちゃえばいいのに。
「あぁ、だが私たちにはどうにかする手段がない。そこで作戦会議をしにきたって訳だ」
「ふぅん、でも鬼ってめっちゃ強いんでしょお? そんなんわたしたちだけじゃどうにもならないっていうか? もう逃げるしかないんじゃあない?」
「いやいや、見捨てるっていうのはナシ! そうだな‥‥‥、あ! あの人は? 一葉さん!」
一葉さんとは、以前この村で出会った門番である。だが、門番が職場にいない時点で結果は見えているだろう。
「いや、それは案外いいかもしれませんよ? 彼はああ見えても、最強と呼ばれています。片手で二十㎏の漬物石を持つくらいですから。付いた名前は鬼です。鬼対策にぴったりじゃないですか」
片手で⁉ いや、だとしても捕まってるんだからそれほどでもないんじゃ‥‥‥。
「あの人、寝起きに物凄く弱いんですよ。寝起きだったら私、片手でも勝てます」
驚きのビフォーアフターで声も出ないわ! でもそれなら救出すれば希望の光ありといったところか。
「話がまとまったみたいでよかったわぁ。でもぉ、残念ながら、わたしは歩けないからぁ、お留守番ねぇ」
「あー、それなんだけど。これ持ってほしいんだけど‥‥‥」
そう言って手渡しのは『とらっち』である。この機械はただのトランシーバーとはひと味違う。
うちのチーム随一の天才発明家ミレイ・コウが製作したものであり、通常のトランシーバーの二倍くらいまで通信を可能にするらしい。勿論、防水機能も兼ね備えている。
まさか、彼の発明品が役に立つときが来るなんて‥‥‥。
「これを使えば、私たちと会話できるから、困った時に相談に乗ってくれると助かる。あと救難信号にも使えるからそっちが困ったときも使って」
「またよくわからないもの持ってるんだねぇ。やっぱすごいねぇ。でも、分かった。わたしもできるだけ協力するから頑張ってきてね」
彼女の尊敬している顔が雅に占領されて面白くないと考えている砂糖がこちらをムッとした顔で見つめているが、可愛いのでそのまま続ける。
「じゃあ、そろそろ救いに行こうか」
「私たちの反撃の始まりとしようか。さぁ、鬼に泣きっ面かかせてみせましょうよ!」
そうして私たちは反撃の狼煙を上げるのだった。




