第6話 【秋下旬】親子で運ぶ、大きなカボチャと小さな勇気
秋の空にはうろこ雲がふわりと流れ、
木々の葉は赤や黄色に染まりはじめていた。
リビエ村全体が、淡く温かい色に包まれている。
広場では、村の人々が収穫祭の準備に大忙し。
焼き栗の甘い香りや、ほくほくの焼き芋の匂いが漂っていた。
「パパっ! 今年はね、親子ペアのカボチャ運び大会に出よーっ!!」
モカナがチラシをぱたぱた広げ、目をキラキラ輝かせる。
ピッカルドは丸眼鏡をごつい中指で上げ、チラシを見つめ、じぃっと考えた。
「……ふむ……巨大カボチャか……問題は……
『冷えっ冷えの蔓』やな……腹に来るわ……」
「パパ、そこなの!? 重さとかじゃなくてっ!?」
モカナはぷっと吹き出し、肩を揺らした。
「じゃあパパは腹巻き4重っ!
わたしが持ち方ちゃんと考えるから、パパは安心してついてきてねっ!」
その頼もしい声に、ピッカルドの胸はじんわり温まった。
「……うむ……わかった。
父ちゃんは誇り高き“副官”や。おまえの作戦に従うで」
◆収穫祭当日
青空にのぼり旗がゆらゆら揺れ、
広場には山ほどの収穫物が積まれていた。
そして大会の主役──
巨大なオレンジ色のカボチャがずらーっと並んでいる。
ピッカルドは腹巻き4重+秋用マフラー+腹冷え防止ベルト。
もはや完全防御。誰がどう見ても「腹を守るための戦装束」。
モカナは腕まくりをして、きゅっと拳を握った。
「パパっ! わたしが持ち手の場所きめるからね。
パパは反対側をしっかり持ってて!」
「……了解や。おまえの判断、全面的に信頼しとるぞ」
「よーい、スタートっ!!」
◆ふたりの呼吸を合わせて
モカナはカボチャの横にしゃがみこみ、慎重に場所を見極める。
「パパっ、ここ持ってっ! 蔓は絶対さわらないようにねっ!」
「……心得た……相変わらず判断、的確やな……」
ふたりは息を合わせて、どっしり重いカボチャを持ち上げた。
周りで村人たちがほっこり見守っている。
「勇者さん親子、息ぴったりやなぁ〜」
「娘さん、またしっかりしたねぇ」
途中、ピッカルドはぎゅっと顔をしかめた。
「……くっ……冷気が……腹に……悪しき気配が……っ」
「パパっ! 持ち替えて! わたしがそっち側支えるからっ!」
モカナはすばやく回り込んでフォローした。
ピッカルドは思わず目を細めた。
「……モカナ……おまえの機転、父ちゃん……感服したわ……」
◆ラストスパート
「パパっ、最後はちょっとだけ速くいくよっ!」
ピッカルドはふっと笑みを浮かべた。
「……うむ……おまえの判断、全力で支えるで!」
ふたりの歩幅がきれいにそろう。
まるで、今だけ小さな冒険をしている仲間同士。
ゴールラインを越えた瞬間、
モカナは胸を張って叫んだ。
「パパっ! 作戦大成功ーっ!!」
ピッカルドは大きく頷いた。
「……うむ……今日の主役はおまえや。
父ちゃんのほうが、たくさん勉強させてもろた気分やで……」
モカナは照れたように笑った。
「でもねっ、パパといっしょだったから、わたしも安心してできたんだよ!」
その言葉に、ピッカルドは胸の奥がきゅっと温かくなるのを感じた。
「……いずれ、おまえから、この手を離す時も来るんやろな……」
モカナは小さく首を振る。
「その時が来てもね、
わたしの手は……『握りたい時は握っていいよ』なんだからっ!」
ピッカルドはふわりと笑った。
「……それは父ちゃんにとって……何よりの救いや……」
秋風がふたりをそっと撫で、
黄色い葉がひらひら舞い落ちる。
この日のカボチャ運びは、
ふたりにとって“秋の終わりの小さな勇気”を胸に残してくれた。




