第4話 【秋上旬】親子で挑む、小さな畑の冒険
初秋の風が、リビエ村をふわりと吹き抜けていった。
畑から漂う湿った土の匂いは柔らかく、
屋台の焼き栗の甘さと一緒に、
季節の訪れをそっと告げている。
市場で買い物をしていたピッカルドとモカナの前に、
マルックじいちゃんが転がり込むように走り寄ってきた。
「た、たいへんじゃーっ!
わしのジャガイモ畑が、ポテトポックルどもに荒らされとるーっ!!」
モカナの瞳がぱちんと輝く。
「ポテトポックル!?
かわいいの? 絶対かわいいよね!? ねっ、パパっ!」
ピッカルドは腕を組み、うーんと唸った。
「……見た目はのう……そら天使級に可愛いんやけどな……
腹の底は無限や……ほぼ次元袋や……そらキツイ相手や」
モカナはぱたんと笑って肩をすくめた。
「きゃはは……、
パパのお腹には揚げもの系もキツイもんねーっ!」
「……そこは……言わんでええんやけどな……」
* * *
畑へ向かう道すがら、朝露の光る畝に、小さな足跡が点々と続いていた。
「……うわ……ボコボコにされとる……」
畝はところどころほじくり返され、ジャガイモが半分だけかじられた跡まである。
やがて、畑の真ん中で――。
「ぽこっ……ぽこぽこっ!」
小さな影が、ぽんぽんとリズムよく地面から顔を出した。
じゃがいもそっくりの丸い体。芽のような手足。
つぶらな黒い斑点がきらりと光り、どこからどう見ても“愛らしさの塊”だ。
「うわぁぁ~~っ! かわいい~~っ!!」
モカナは歓声とともにぴょんっと跳ねた。
ピッカルドは険しい顔で観察する。
「……可愛いが……数が多い……。
無理に追い払ったら畑がすべてひっくり返る……。
魔王よりタチ悪い時あるで、こいつら……」
モカナは胸をとんとん叩いた。
「パパ、ここはわたしにまっかせてっ!」
バッグを開くと、甘い香りがふわっと広がった。
「パン屋のおばちゃんが教えてくれたの!
ポテトポックルは甘いものがだ〜い好きなんだって!」
ピッカルドの顔がふっとほころぶ。
「……おまえ、ほんま賢いなぁ……
そのうち父ちゃんの知識、全部追い越すんちゃうか……」
モカナは畑の端に甘いパンの切れ端をそっと並べていく。
甘い香りに気づいたポテトポックルたちは、
「ぽこっ、ぽこぽこ〜」と鳴き、ぞろぞろとその方向へ移動を始めた。
その瞬間を狙って、村人たちが一斉にネットを広げる。
「今じゃーっ!!」
ぱさっ!
軽やかな音とともに、見事全匹捕獲成功。
「モカナちゃん、すごいよーっ! 助かったわぁ!」
「えへへっ……パパといっしょだから、がんばれたんだよーっ!」
モカナは照れながら、ピッカルドの腹巻きをちょこんと整える。
「パパが見ててくれたから、安心だったもん!」
ピッカルドは娘の頭をそっと撫でた。
「……モカナ、おまえの知恵と優しさ……父ちゃん、誇らしくて胸が熱いわ……
魔王倒した時より……ずっと、な……」
秋風がふたりの間をすり抜け、枯れ葉を一枚そっと転がした。
捕獲されたポテトポックルたちは、パンをもぐもぐ頬ばりながら大人しく丸くなっている。
まるで「もう悪さしません」と言っているかのようだ。
小さな畑での冒険は――
父と娘の絆を、ほんの少しまた強く結んでくれた。
夕陽が畑を黄金色に染め、
親子の影は長く長く、やさしく伸びていった。




