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アニマル  作者: Aju


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43 強き者

 しかし所詮は素人と玄人の違い。

 龍神帮の2人はあっけなく倒され、傷ついたままSATに拘束された。


 ただ、この銃撃戦の中で思いもかけないことが起こっていた。

 銃撃の音に驚いたのか、奥の扉からA61が顔を出したのである。そこへ流れ弾が跳んでドアに弾けた。


 剛田と渡り合っていたリュウジがバッと後ろに跳び下がって近くにあったテーブルを持ち上げ、A61を流れ弾から守ろうとした。

 流れ弾の1発がリュウジの脇腹に当たって鮮血を飛び散らす。

 剛田もあまりの意外さに動きが止まった。


「出てくるな、サチコ!」

 リュウジが叫ぶ。


 A61を「サチコ」と呼んだ。

 そのことに剛田は二度驚いた。


 A66のその言葉を聞いて、阿久根が飛び出した。

 一直線にA61に向かう。あの女を人質に取れば、A66の動きが鈍るはず。

 剛田さんは「リュウジとの勝負には手を出すな」と言っていたが、A61を捕まえる分には文句は言うまい。

 そもそも健次に直接手を下したのはA61なのだから。


 ところが。

 あと少しでA61に手が届く——というところで、阿久根の視界に突然A66が現れた。

「な‥‥?」

 人の速さとは思えない。


 次の瞬間。

 阿久根は初めて戦場で遅れをとった。


 A66の拳が阿久根の顔面を襲う。

 スウェーでかわそうとしたがかわしきれず、グシャッという音と共に阿久根の体勢が崩れた。

 ドスを抜いたが、足に力が入らない。


「相手はこっちだ!」

 剛田が叫ぶ。


 SATの隊員がリュウジに狙いをつけようとするが、速すぎて狙いが定まらない。

「撃つな。一般人に当たる。」

 西田がそう言ってSATを止める。


「あれが一般人ですか?」

 SATの隊長が西田に言ったが、西田はしれっとしている。

「一般人だ。」


 この一連の乱れに剛田は付け込んだ。

 リュウジはテーブルを持ち上げた時にダガーを手放している。しかも、脇腹にSATの銃弾を受けている。

 リュウジが体勢を立て直す前に、突進した剛田のドスがリュウジの胸に深々と突き刺さった。

 心臓を貫いたはずだ。

 ‥‥が、ドスを捻って死を確実にしようにも鋼のような筋肉が刃をつかんでしまっていて全く動かない。


「リュウジ!」

 A61の悲痛な叫びが聞こえた。


 リュウジの両手が剛田の頭をガッとつかんだ。

 そのまま頭蓋骨を割り砕く勢いで指が締め付けてくる。まるで万力だ。


 どこにこんな力が‥‥。

 ドスが心臓を貫いているはずなのに‥‥。


「男の‥‥価値は、強さだ!」


 割れる。

 頭蓋骨を握りつぶされる‥‥。


 剛田がそう観念したとき、ふいに指の力が緩まった。

 リュウジの目が、ぐりん、と裏返って白目になる。


 硬直したままの姿勢でリュウジがゆっくりと後ろに倒れると、ドスはリュウジの胸の筋肉でつかまれたまま剛田の手から奪い取られていった。

 背中が床にドンと当たり、突き出ていた切先が押し込まれてドスが少しだけ手前に持ち上がる。

 そこからようやく真っ赤な血がふき出してきた。


「リュウジ! リュウジ!」

 A61が叫びながら走ってきて、A66の頭を抱きかかえた。

 抱きかかえて、何度も何度も名前を呼ぶ。


 剛田はその姿をじっと見下ろしている。

 そうか‥‥。互いに名前で呼び合っていたのか‥‥。

 剛田は、バケモノと呼ばれた男の意外な一面を見た気がした。


 男の価値は、強さだ——


 そうだ。

 おまえは強い男だった。

 この女を守ろうとさえしなければ、斃されていたのは俺の方だっただろう。

 ただ1人の女を守るために、己れの命のリスクさえ取ることができる。

 おまえは、真の強者だ。


 剛田はリュウジにすがって泣き続ける()()()を見下ろした。

 リュウジが、守ろうとしたもの‥‥。


 恩田と西田が中に入ってきた。


A61(こいつ)は‥‥失ってばかりだな‥‥」

 西田が憐れむようにぽつりと言う。


親父(おやつ)さん。」

「よく生き残った、剛田。」

 恩田もそう言っただけだ。A61のことは何も言わない。


「親父さんにお願いがあるんですが‥‥」

 剛田は恩田の顔を見る。恩田はすっかり穏やかな顔に戻っていた。

「こいつの強さと俺の顔に免じて‥‥。サチコを、A61を許してやっちゃあくれませんか?」

 剛田は、リュウジが守ろうとしたものを踏みつぶすことだけはしたくないと思ったのだ。それは命のギリギリまでをやりとりした相手に対する敬意であったかもしれない。


 その「顔」にはリュウジの10本の指の痕がぐるりと取り囲むように残っている。

 恩田がその顔を見て、ふっと笑いを漏らした。

 もちろん剛田は自分の顔がそんなことになっているとは知らずに、そういう意味ではなく言ったのだが。


「おまえがそう言うんなら、俺はかまわん。健次はたしかに身内だったが、あれもまた身内みたいなもんだ。だが、この先も飼ってやることはできん。どこへなと行かせろ。」

 そういう恩田も、少しホッとしたような顔をしている。


 リュウジの指の痕は、剛田の顔面を取り囲むようにアザとして残った。

 のちに人はそれを「鬼の数珠」と呼ぶようになる。


 西田は焼却炉で燃やした後のA66の遺骨を、小さなガラスのビンに入れてA61に持たせてやった。


「あれもかわいそうな女なんだ‥‥」



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