41 男の価値
恩田の指揮がいかに優れているか。
それを示すのが、ここまでの半澤組側の死者・怪我人の少なさだ。
緒戦でいきなり頭を撃たれた金田以外、死者を出していない。怪我人は数人いるが、田沼以外はまだついてきている。
進退の判断が見事なのである。
3階からこっち、敵の数が少なかったこともあるかもしれない。
最上階の一つ下。
いよいよ龍次のいるエリアに入る前に、恩田は階段で皆を止めた。
「おそらくこの先の玉座の間の前に、残った構成員が集結してるはずだ。階段室から頭を出す前に手榴弾を使う。」
「へっへっへ。そういう道具があるとは、向こうも思ってねーでしょうね。効果的に使いましょう。」
阿久根が恩田の指示に嬉しそうに答えて、袋から手榴弾をゴロゴロと階段の上にあけた。
風呂敷を広げてその上に手榴弾4つを並べ、風呂敷の四隅を集めて片手で握る。
それからもう一方の手で一気に4つの安全ピンを外し、手榴弾が包まれた風呂敷をぐるんぐるん回しながら階段室から半身を乗り出した。
「うりゃ!」
かけ声と共に風呂敷を投げ、すぐに壁の陰に戻る。
パパパッ! と階段室の壁のコーナーが銃弾に弾けるのと、「うわっ」という敵の声が聞こえるのが同時だった。
ど・ど・どおぉーん!
手榴弾の爆発音が聞こえ、そのあとうめき声が聞こえる。
パパパパッ!
やみくもに敵が撃ってきた弾が、あちこちに当たって火花を散らす。
「ひゃっほぉう!」
阿久根が飛び出してジャンプするや、天井を走った。
天井を、走ったのだ。
そのように見えた。
走りながら、2丁のカラシニコフを乱射する。
間髪を入れず恩田が叫ぶ。
「出ろ! ここが男の死に場所だっ!」
阿修羅となった恩田の下知に、組員全員が銃を撃ちながらホールに飛び出した。
激しい銃撃戦が始まった。
「剛田。おまえは一旦さがっていろ。リュウジに対する切り札だ。」
恩田も剛田を庇うように前に出て、愛用のグロックで敵が物陰からわずかに頭を出したところを撃ち抜いてゆく。
「親父っさん!」
剛田が恩田の前に出ようとするが、恩田はそれを片手で制した。
「俺は一度、ヤツに負けてる。勝てるとしたらおまえしかいない。」
「うっひょおーぅ!」
隠れながら応戦している龍神帮の兵隊に対して、阿久根がまた壁を走って裏側へ回った。
ダガガガガガガッ!
2丁のカラシニコフが唸る。
「ガッ!」
「ギッ!」
「う、ぐうぅ‥‥」
バリケードの裏に回り込んだ阿久根に対して、龍神帮の兵士の1人が銃を捨てて両手を上げた。
「こ‥‥降参だ‥‥。」
阿久根はまだ熱い銃口をそいつの顔に押し付ける。
龍神帮の男が顔をしかめた。
「あっつ‥‥」
「強いのが龍神帮の男じゃなかったのか?」
阿久根が目を据えたまま、低く言った。
気に食わない。
俺たちや、ましてや親父に、あれだけの恥をかかせておきながら‥‥。カチ込まれたくらいで降参するのか?
吐いたツバ呑むんじゃねぇ!
阿久根はそのまま引き金を引いた。
男の頭がザクロのように弾け散った。
「剛田さん!」
背後で良郎の声がした。息を切らせている。
「おまえ、田沼についていろと言ったはずだが?」
「携帯がつながらないんで走れって、田沼さんが‥‥」
良郎はそう言って、ひとつ息を継いだ。
「特殊部隊が来ました!」
剛田が恩田を見た。
恩田は組員たちを見回す。
怪我をしてるやつはいるが、死んだやつはいなさそうだった。
やはり、肉体のみの喧嘩なら龍神帮は強いかもしれんが、得物を使った戦争となるとヤクザもんに一日の長があるか‥‥。
しかし、銃器を持って戦えるのもあと少しだ。さすがに警官の目の前で銃をぶっ放してたら、西田でも揉みつぶせないだろう。
「聞いてのとおりだ。さっさと最後の扉を爆破してカタぁつけるぞ。」
恩田の下知で組員たちがプラスチック爆弾を取り付けにかかる。
どおおぉぉん!
という音と共に扉があちら側に倒れると、その向こうから銃撃があった。
爆風を避けるために物陰にいた半澤組の戦闘員は、すぐには動けない。
「恩田ぁっ!」
玉座の間から怒声が響いた。
「盃事を酌み交わしておきながら、この狼藉はなんだ! 半澤の歴史に恥ずかしくないのかっ!」
「あんなものは盃事とは言わねぇ。盃事ってのは、きちんと場を整えて日本酒でやるもんだ。」
恩田が立ち上がると、玉座の間の中にいた龍神帮の2人が銃を構えて壁の陰から出た。
半澤組の組員も恩田の前に出て銃を構える。双方の動きが止まった。
撃ち合えば、リュウジにも弾が当たるだろう。
「おまえら、撃つな。 おい、恩田! もう一回俺とやる度胸あんのか? あるなら1人で入ってこいよ。セカンドチャンスをやるぜ?」
「ここにいる剛田がおまえと戦りたいと言っている。受けてやってもらえるか?」
剛田がゆらりとA66の正面に出た。
「ふはは! なかなか強そうじゃないか。気に入った。入ってこいよ。」
剛田は持っていた拳銃をぽんと横に投げ捨てて、ゆっくりと歩き出す。
安物のスーツのベルトに挟んでいたドスを、ベルトから引き抜いて右手に持つ。
まだ鞘からは抜かない。
「おまえらは他の連中が入ってこないように見張ってろ。入ってこようとしたら皆殺しにしろ。ここに入っていいのは、俺とタイマンはれるヤツだけだ。」
龍神帮のドアボーイは2人だった。
銃を構えたその2人の間を通り抜けるとき、剛田はその2人に溶鉱炉のような瞳で一瞥をくれた。
ただそれだけだったが、龍神帮の2人は金縛りにあったようになり、自然に震えがくるのを意識した。
この殺気は‥‥
リュウジさんと同じだ‥‥。
大晦日UPです。
リュウジと剛田の対決は、また来年。
みなさま、良いお年を。。m(_ _)m




