40 龍神城戦
「リュウジは俺が殺る。」
剛田がそう言ったとき
「ええ〜? アタシが次の若頭になるには剛田さんの仇をきっちりとらなきゃダメってことっすか?」
と阿久根がおどけて言った。
「ぬかせ。俺がきっちりカタをつけてやるから安心して見てろ。」
「へい。アタシまで回ってこないよう、よろしくお願いしやす。」
阿久根がわざとA66に怯えるそぶりを見せて返す。
出発前にそんな冗談めかしたやりとりを見せただけあって、ここに乗り込んだ2人は確かにA66にも引けはとるまいと思わせる働きぶりだった。
阿久根には弾が当たらない。
そんな伝説があったが、組員たちは今それを目の当たりにしている。
阿久根は、隠れながら撃つ——という定石どおりの戦い方をしない。
銃弾の飛び交う中に身を躍らせ、猿のような動きで2丁の小銃を両手の延長のように扱って敵を至近距離から蜂の巣にしてゆく。
敵の弾は阿久根には当たらない。
不思議なほど当たらない。
「あいつは戦場の空気を読むんだ。あんまり抗争のない平和な時が続くと、あいつは恩田さんに願い出て海外の紛争地に傭兵としてアルバイトに行くことがある。」
剛田はそんなふうに阿久根のことを評していた。
勘がなまらないように、ということらしい。
そういうことを許すのがまた、恩田という六代目の面白いところでもあった。
一方の剛田の戦い方は圧倒的な貫禄を見せつけるようなところがある。
阿久根のようにぴょんぴょん飛び跳ねるような感じはなく、豪胆に堂々と歩いているようでいて必要な場所では人かと思うような俊敏な動きを見せる。
その緩急があるために敵は狙いがつけにくく、撃ったと思ったときにはそこに剛田の姿はない。
一瞬、剛田の姿を見失った敵は次の瞬間、至近距離から剛田に撃たれている。あるいは殴り倒されている。
剛田が持っているのはグロックだろうか、普及型の拳銃1丁だけだ。あとはスーツの内側にドスを1本呑んでいるだけで、阿久根のような小銃は持っていない。
銃で殺すというより殴り倒す方が多い。このあたり、リュウジと戦い方が似ている。
それが龍神帮の構成員たちには銃撃よりも恐怖を与えるようで、剛田が近づくだけで後方に撤退するやつもいた。
龍神城の守備隊はそれほど多くはなかった。せいぜい20〜30人といったところだろう。
が、半澤組も小さな組織だ。
総勢で十数人しかいない中、すでに3人が死傷も含めて後方に下がっている。
ふつう城攻めには3倍の人数がいるなどと言われるが、半澤組はそのわずかな人数で錐で揉み込むように城の防御を突破しつつあった。
砲弾を使う近代戦ではなく、銃火器はあるとはいえ肉弾戦で援護もなく突入するという点では戦国の城攻めにも似ている。
ただ、「城」を持っていながら龍神城側には油断があった。
一つには、そのトップの力を過信し、驕りがあったのであろう。城に常時いる人数が少ない。
そしてもう一つは、不意打ちで中に入られてしまったことだ。
あらかじめキナくさいとわかっていれば人数を城に集めていただろうが、彼らは何の情報も得ていなかった。
他のギャング組織が半澤組と誼みを持って警察の動きをそれなりに知ろうとしていたのに対し、龍神帮は力任せに半澤組を組み敷いた。
他のギャング組織の中には警察の動きに感づいた者もいたかもしれないが、龍神帮に情報を流すやつはいなかった。
そういう人の心事を一顧だにしなかったのは、リュウジという男の子供っぽさかもしれない。集まった者たちも、圧倒的なリュウジの暴力に心酔するあまり、心が雑になっていたのだろう。
細心は結局、臆病や小心からしか生まれないものなのかもしれない。
まさか、傘下に入ったはずの半澤組が警察と組んで襲ってくるとは想像もしていなかったようだった。
半澤組の戦士は龍神城の鉄の扉をなんなく破ってゆく。
プラスチック爆弾を仕掛け、枠ごと破壊して扉が倒れたところへ手榴弾を放り込む。
そんな武器をどうやって短期間に入手したのか、所詮半グレの集まりに過ぎない龍神帮とは装備が違った。
龍神帮側の構成員が行なっているのが個々の能力に依存した戦闘でしかないのに対し、半澤組のそれは装備も含めて組織だった戦争だった。
その総指揮をとっているのが、陣の中央にいる恩田だ。
通常なら恩田自らではなく若頭の剛田がその任にあたるのだが、今回に限っては総力戦だ。
恩田は剛田と阿久根の2人の戦闘力を100%活かしたいと考え、自由に暴れ回らせている。
余計なことに気を使わず、目の前の戦闘に注力してほしい。何より、剛田にはこのあとリュウジとの勝負が控えているのだ。
もちろん恩田も戦っている。
恩田は全体の指揮をとりながら、部下に撃たせるだけでなく自らの拳銃でも目についた敵を撃っていた。
恩田の射撃は神業とも言っていい。
ほとんど外さない。
弾数は撃たないが、一発で敵の顔面を撃ち抜いて即死させている。
その顔は、普段の温厚な恩田の顔ではない。
鬼田、阿修羅、などと異名をとった往年の顔に戻っている。いや、年を重ねた分むしろ凄絶さが増している。




