39 龍神城戦
良郎はビビっていた。
とにかくビビっていた。
今朝早く召集がかけられ、「龍神城に殴り込む」と聞かされ、武器を配られた時には生きた心地がしなかった。
「健次の仇討ちだ。敵は指示を出したリュウジ。リュウジの首を取る。」
剛田さんが殺気をはらんだ目でそう言った。
全員の顔が引き締まる。
あ‥‥兄貴の仇なら、俺が行かないというわけにはいかないが‥‥。
しかし良郎はビビっている。あの龍神城だ。
生きて帰れる気がしない。
そんな良郎の怯えを剛田は見ている。
ビビっているやつを無理やり前に押し出しても、味方の足を引っ張るのが関の山だ。この戦いは負けられない。
「良郎と仁。おまえら2人は最後尾で後始末をしながらついて来い。この戦いは失敗が許されない戦いだ。先頭はベテランがやるから、お前らは倒した敵を後ろ手に縛りあげて確実に無力化しろ。生きてるヤツも死んでるヤツも、だ。背後の憂いなく前進したい。」
紺色のスーツが配られ、それを着ろと命じられた。
似合わない。
良郎はガラスに映った自分を見てそう思う。さまになってない。
兄貴分たちもそう思うのか、ニヤニヤと笑われた。
「なかなか、立派じゃねーか。良郎。」
「はあ‥‥。」
最後くらい、もう少しカッコいいものを着て死にてぇよな‥‥。いや、死にたくはないけど‥‥。
戦闘に加わらなくていいと言われても、龍神城に殴り込みに行くというだけで生きて帰れる気がしないのだ。
俺はどんくさいから‥‥。
良郎はなお、ビビっている。
突入は午前10時きっかりに始まった。
先頭は組きっての武闘派、剛田さんと阿久根さんが我に続けとばかりに進んでゆく。その後ろに槍型の陣形で続く中堅組員たちに囲まれるようにして恩田さんが悠々と歩いてゆく。
1階にはほとんど構成員はいなかった。
出会った者たちは、何が起こったかもわからないまま、銃弾を受けてその場に斃れた。
良郎と仁はその死体や重症者の手足をビニール製の結束バンドで縛りあげて後に続いた。
良郎は半澤組のカチ込みを初めて見る。
堂々としていてカッコいい。
俺もいつかあんなふうになれるといいな‥‥。そう思いながらも、一方でこの戦争を生きて帰れるような気がしない。
部下の構成員はともかく、最上階にはあのリュウジがいるのだ。
良郎の中で、その男は鋭い牙の並んだ口を大きく開けた魔物のイメージになっている。
2階は1階のようにはいかなかった。
あらかたは警察が一斉検挙してしまっているとはいえ、それなりの人数が当番で警備にあたっているのだ。
パパパパパッ! とカラシニコフの音と共にそこいらに火花が散ると、ベテランの組員たちは、さっと散開して物陰に隠れた。
銃撃戦が始まった。
良郎たちも慌てて壁の陰に隠れたが、新参の組員が2人ほど弾に当たったらしい。
「良郎!」
剛田さんの声が聞こえる。良郎たち2人は負傷者を後方に下げる役割も仰せつかっているのだ。
‥‥が、弾丸が飛び交い、跳弾が弾ける中、良郎も仁も動けない。
「何をやってる! 負傷者を下げろ!」
剛田さんの怒号が飛ぶ。
良郎と仁は銃弾の飛び交う空間に飛び出す。
当たるな!
当たるな!
「た‥‥田沼さん! 大丈夫っすか?」
「まだ戦える。」
柱の陰に身を隠した田沼さんは脇腹に被弾していたが、時おり銃を出しては敵が隠れている物陰に向けて発砲していた。
「俺より金田の方が重症だ。足を引っ張ってでいいから、銃弾の届かないところへ下げてやれ。」
田沼さんが援護射撃で敵の隠れているあたりへ銃弾を打ち込んでいる間に、良郎と仁は床に倒れて動かない金田さんの足首をつかんで柱の陰へと引きずった。
金田さんは頭を撃たれて、すでにこときれていた。
「ちくしょう!」
良郎が、護身用にと渡されていた拳銃で、銃を撃とうと半身を表した敵を狙って引き金を引いた。
もちろん良郎の弾なんかが当たるはずもなく、そいつは銃弾が弾ける中でひと連射するとまた物陰に引っ込んだ。
「バカ。それはおまえらの護身用だ。ムダ弾を撃つな。」
田沼さんに叱られた。
「うおおおぉりゃ!」
と声がして阿久根さんが突進するのが見えた。
まわりの者が一斉に小銃を連射して阿久根さんを援護する。
阿久根さんは物陰から物陰へ走ったりはせず、豪胆にもテーブルの上に飛び乗って上から敵に向かって2丁のカラシニコフを乱射した。
一瞬で敵の発砲が止まった。
「逃げんな、オラァ! 龍神帮だろが!」
阿久根さんが怒声と共にさらに1丁を連射する。
「ひっ‥‥ぐ‥‥!」
くぐもったような悲鳴のあと、どう、と人の倒れる音がした。
2階は制圧したようだ。
「か‥‥金田さんが‥‥」
良郎が悲痛な声でそう言うと、恩田さんが片手を拝むように上げた。
「名誉の戦死だ。必ず連れて帰ってやるから待ってろ。」
それから力強い声で檄を飛ばした。
「リュウジを狩るぞ!」
起き上がってついて行こうとする田村さんを剛田さんが制した。
「田村。その傷じゃ無理だ。ここに残って警察が来たら俺に知らせろ。良郎。田村の傷を見ててやれ。仁はついてこい。」




