表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アニマル  作者: Aju


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/44

32 飼い主

 フードバンクに通った何度目かの夕方、いつも期限切れをくれるあの野中さんという女性がA65に声をかけてきた。

 茂さんが仁美さんと呼んでいる50がらみの人だ。


「サトさん。あなた、その包帯の下、大きな『X』なんでしょ?」

「え? ‥‥あ‥‥」


 気づかれてるな。とは思っていたけれど、面と向かって言われるとA65はやはり動揺してしまう。どういう態度をとっていいか咄嗟に判断できなかった。


「もしあなたさえよければ、わたしが飼い主登録してもいいわよ?」

「え‥‥?」


 なんでわかったんですか? とは聞かない。

 スマホに警報アプリさえ入れていれば、音を消しておいても振動でそこにいるとわかる。『X』を確認する必要もない。


「部屋の中で寝ることもできるし、食べ物の心配もいらないわよ?」


 なんでそんなこと言うんですか? 俺は危険なやつですよ?

 しかしA65はその言葉を口には出せず、むしろ自分で自分を嘲笑しただけになった。

 どこが危険なんだ? こんな弱っちいヤツ‥‥。


「あ‥‥ありがとうございます。でも‥‥」

 自分でも不思議なほど素直な言葉が出た。

 しかし‥‥

 茂さんたちと暮らすあの場所も、とても居心地がいい。

「少し、考えさせてください‥‥。」



「なんで断ったんだよ? いい話じゃねーか。」

 ゲンさんはそう言ってワンカップをちびっと舐めた。

 この人はワンカップ1杯をちびちび舐めながら2日くらいもたせる。それを買う金を手に入れるために、昼間は茂さんと一緒に空き缶を拾って歩いて回るのだ。

 自販機の下を覗き込むのも()()のうちなんだそうだ。

「俺は環境問題の解決に貢献してるんだ。」

 自販機の下を覗き込むのがどう貢献するのか、よくわからない。


 タラやんは時々、日雇いの仕事に出てゆく。若くて力はあるからそれなりに重宝されるらしいが、周りは言葉のわからないやつばかりだから馴染めない、と言葉少なに言っていた。


「俺たちは冬になると『越冬ハウス』に入れてもらえるからいいが、おまえはそれじゃあ入れてもらえんだろ。冬はダンボールだけじゃキツいぞ?」

 ゲンさんがカップ麺をぼりぼりかじりながらいう。

「3人1部屋の『越冬ハウス』を嫌がって外で冬を越すやつもいるが、毎年何人かは春までに死ぬ。」


「仁美さんがそんなふうに言ってくれたんなら甘えたらええだら。」

 茂さんも期限切れの食パンをむしゃむしゃと頬張りながら、そう言った。

「わしぁいっぺん外で冬越ししようとしたことがあるが、夜は寝たら凍死するで寝ないで夜通し缶を拾って歩くんだわ。」

「そうそう。ほんで昼間日の照っとる時に寝るのな。」

 ゲンさんも相槌を打って話に入ってくる。


「シッ! シッ!」


「日が照っとりゃええけどよ。雪なんか降ったら、ほりゃだちかんで?」

「あんときゃ2人とも、1週間で『越冬ハウス』に逃げ込んだな。」

 ゲンさんはそう言って笑った。


「シッ! シッ!」


「どうして外で冬を越そうなんて思ったんですか?」

 なんだか楽しい思い出でも話すようにその経験を話す2人に、A65は素朴な疑問として聞いてみた。

「暖かいし食事(めし)ももらえるけど、あれは俺たちを更生させようとする施設なんだよ。」

「わしぁ仕事紹介してもらえるのはありがたいんだが、ゲンさんが嫌がってな。」

「うっとおしいんだよ。自由がないんだな。」

 たしかに、この暮らしは「自由」かもしれないな‥‥。とA65は思う。


 ただ‥‥

 この人たちはそうやって()()()()()()をうまく利用しながら生きてゆけるが‥‥、俺は違う。

 その『越冬ハウス』は俺を受け入れてはくれない。

 フードバンクだって、茂さんが一緒に行くから分けてもらえるんだ。


「シッ! シッ!」

 タラやんは話に加わらずに型稽古を続けている。


 A65はひと晩考えた末、野中さんの申し出をありがたく受けることにした。




 *(方言翻訳) ほりゃだちかんで → それはどうしようもないぞ   (^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ