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破滅フラグ回避しまくったら、冷徹チートで無双してました!  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第31話 祈りの原典

――静寂が、音を呑み込んだ。


 修道院地下最深層。

 そこに広がっていたのは、もはや人の手が触れていい領域ではなかった。

 封印扉が開いた瞬間、世界は“白”で満ちた。

 光だ。

 ただの光ではない。

 祈りそのものが凝縮された、光。


「……っ」

 アレンは反射的に目を細めたが、視界は閉じられない。

 瞼の裏にまで、金色の経文が焼き付く。

 床も、天井も、壁も存在しない。

 上下の感覚すら曖昧な、無限の白。

 その空間を、無数の祈祷文字が漂っていた。

 淡く、しかし確かな存在感をもって、呼吸するように揺れている。


 リリィが思わず息を呑む。


「……まるで、生き物の中にいるみたい」

 彼女の言葉は、光に溶けた空間の中で震えた。


 中央。

 いや、“中心”としか言いようのない場所に――。

 巨大な白水晶が、浮かんでいた。

 表面は滑らかで、内部では淡い光が脈打っている。

 まるで巨大な心臓のように鼓動していた。

 

「……《ルーメン・コア》」

 トレヴァーの声が、僅かに震えた。

「祈りの原典。

 すべての聖堂祈祷、その源流……」


「聖域、じゃねぇな」

 ガイアが低く唸る。

「こんなの、檻だろ。

 祈りを閉じ込めた――監獄だ」

 アレンは剣の柄に手を添えたまま、無言で頷いた。


 静かに――だが確実に、鼓動が五人の心臓と同期していく。


 ドクン。

 ドクン。

 ドクン――。


 その瞬間、リリィの瞳に祈祷文字が映り込み、光が彼女の頬を撫でた。

 それはまるで“意識”を持つかのように、五人を包み込む。


 嫌な感覚が、背筋を這い上がる。

 この場所は、“歓迎”している。

 彼らを。 試すために。


「……何かが、来る」

 カミラが弓を構えたが、矢は放たれない。

 次の瞬間、彼らの視界はそれぞれ“別の世界”へと断たれた。



 ――アレンの眼前に広がっていたのは、戦場の残滓だった。


 焼けた大地。崩れ落ちた家。

 そして――その中心に、倒れている影があった。


「……アレン……」

 リリィだった。

 血に濡れ、息も絶え絶えで、こちらを見上げている。

「どうして……助けてくれなかったの……?」

 血に濡れたリリィが、静かに問いかける。

 幻だとわかっていても、胸が軋んだ。


「俺は……!」

 否定しようとした瞬間、別の声が重なった。

「あなたの正義は偽善」


「救うだなんて言いながら、自分を守るために戦っているだけ」


「戦うことで本当に救われたの?」


 声が増えていく。

 仲間の声。

 民の声。

 敵だった者の声。


 そのたびに、アレンの足元が崩れ、地面が黒く染まっていく。


 それでも、アレンは剣を握った。

 震える手で、しかし確かに。


「……正義が偽りでもいい」

 声を張り上げる。

「俺は、守るために戦ってる!

 それだけは、嘘じゃない!!」


 剣を振り抜いた瞬間、蒼光が炸裂した。

 幻が、粉々に砕ける。



 静寂。

 音が、ない。

 白い空間の中で、リリィは一人、立っていた。

「……なに、ここ」

 見覚えがある。

 いや――“覚えがありすぎる”。

 それは、野営地。

 焚き火の残り香。

 簡素なテント。

 勇者パーティの、日常の風景。


「……夢?」


 否。 

 焚き火の向こうに、誰かが立っていた。


 アレン。

 ガイア。

 トレヴァー。 

 カミラ。 

 そして――エリアス。

 五人は、輪になって話している。

 楽しげに。穏やかに。

 そこに、リリィはいない。


「……は?」

 思わず声が漏れた。

 近づこうとする。

 だが、足が動かない。

 会話が、はっきりと聞こえてくる。

「エリアス、無理しなくていい」

「君が正しい」

「僕たちは、君を信じる」

 アレンの声。

 迷いのない、断定。

 

 次の瞬間、視界が切り替わる。

 王都。

 謁見の間。

 玉座の前に立つのは、エリアス。

 光に包まれ、称賛を浴びている。

 アレン達四人は、その後ろ。

 ――やはり、リリィはいない。


「そっか。

 いなくても、成立するんだ」

 声が、震える。

 幻の中のアレンが、こちらを見る。

 いや、見ていない。

 リリィを、認識していない。


「リリィは感情的だから」

「足並みを乱すから」

 誰かの声が言う。

 それは、仲間の声だった。


「……やめてよ」

 胸が、締め付けられる。

 

 幻のアレンが口を開く。

「だからこそ、ここには連れて来られなかった」

――決定的だった。


「……あぁ、そっか」

 リリィは、杖を強く握った。

「私が怖いんだ。

 信じすぎるから。

 疑わないから」

 魔力が、暴走しかける。


「でもね――」

 顔を上げる。

 その瞳に、涙はない。

「信じた相手に、裏切られる方が  ――裏切るより、ずっと辛いんだよ」

 杖を振り下ろす。

「私は、信じる!

 仲間を疑って成り立つ正義なんて、いらない!!」

 

 爆発的な魔力が、幻を焼き尽くす。

焚き火も、王都も、称賛も――すべてが崩壊した。



 ガイアの幻は、燃える都市。

 瓦礫の中には、守れなかった民が倒れていた。

 己の剣。

 その刃が血で染まっている。


「正義を叫ぶくせに、力を振るうしか能がない」

「正義を語る資格はない」


 声が耳の奥で響く。

 ガイアはゆっくりと拳を握り、そして――笑った。


「そうだ。俺は力を求めた。

 でも、力を使わなきゃ救えねぇ奴もいる!」


 大剣を地に突き立てる。

 その衝撃が世界を揺らし、幻影の瓦礫を吹き飛ばした。


 トレヴァーの幻は、神のいない礼拝堂。

 誰もいない祭壇に、彼は一人、膝をついていた。

 祈りを捧げても、返答はない。

 天の声も、奇跡も、沈黙している。


「……沈黙、か」

 トレヴァーは微笑んだ。

 疲れた顔で、それでも、穏やかに。


「神が沈黙しても、人が祈るのをやめる理由にはならない。

 なぜなら、それが――人の“意志”だから」


 その瞬間、頭上に浮かぶ経文が光を放ち、

 礼拝堂が崩れ、祈りの雨が降り注ぐ。



 カミラの幻は、暗闇の森。

 命令が響く――「撃て」。

 その声の通りに矢を放てば、少年が倒れる。

 従えば罪。逆らえば裏切り。


 彼女は静かに弓を下ろした。

「……もう命令はいらない。私は自分の意志で、狙う」


 放たれた矢は、闇を貫き、幻影を粉砕した。



 そして――全員が《ルーメン・コア》の前に立っていた。

 白光の渦が収束し、祈祷文字が螺旋を描く。


 リリィが息を整え、微笑んだ。

「……試されてたのね。私たちの“祈り”を」


 アレンは頷き、剣を構えたまま白水晶を見据える。

「試練が終わったなら、次は“答え”が来る。」


 ルーメン・コアの中心で、光が震えた。

 次第に、それは“人の形”を成していく。

 無数の祈祷文字が周囲を旋回し、まるで祈りそのものが命を持ったかのようだった。


 トレヴァーが顔を上げ、蒼白になる。

「この祈祷構文……古代の“祈り変換機構”だ。まさか、まだ生きていたとは……!」


 その時――

 声が、響いた。


「――祈り、収束開始。神格化シーケンス、起動」

 機械のような冷たさで、それは告げる。

 空間が歪み、祈りが粒子となって吸い上げられていく。


 アレンの頬を、白い光が掠めた。

「祈りが……吸われてるのか……?」


「違う!」

トレヴァーが叫ぶ。

「変換されてる! “神”を生み出すために!」


 その瞬間。

 エリアスの胸の聖印が、眩く光った。

「……っ!」

 彼女の体が震え、膝をつく。


「エリアス!」

 アレンが駆け寄る。

 彼女は微笑んで、首を振った。


「……私の中の祈りが……答えてる」


「貴女が……鍵……?」

 トレヴァーが凍りつく。


 ルーメン・オリジンの輪郭が明確になり、神聖な旋律が、機械の唸りと融合して響き渡る。

 白水晶の中に、無数の祈りの文字が集まり、

 巨大な人影が――ゆっくりと目を開けた。


「――人の祈り、解析完了。次段階――統合」


 その瞳に宿るのは、慈悲ではなく“意志”の欠片。

 人が作った祈りの機構。神ではなく、神を“再現”する装置。


「祈りを……神にする装置? そんなの、狂ってる……!」

 リリィが呟く。

 

 アレンが剣を構える。

 蒼い光が刀身に宿り、勇者の瞳が燃える。


「だったら、俺たちがこの“祈り”を止める!」


 世界が白光で弾けた。

 視界が崩壊し、音が消え、祈祷文字が嵐のように舞う。

 重力も方向も消え、ただ“祈りの脈動”だけが響く。

 彼らはその中に立っていた。

 人と神の境界――祈りそのものの内部に。


 静寂。

 白の中で、六つの影がゆらめく。

 エリアスの髪が、ゆっくりと浮かび上がった。


「……ここが、“祈りの核”なのね」


「そうみたいだな」

 アレンは剣を握る手を強める。

「なら――壊すしかない」


 ルーメン・コアの中心、まだ形になりきらない“光の神”が、彼らを見下ろしていた。

 祈りが形を成す。

 人の希望が、神の呪いとなる。

 そして、闇に沈む修道院の底で、

 一つの新たな“原典”が目を覚まそうとしていた――。

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