表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅フラグ回避しまくったら、冷徹チートで無双してました!  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/33

第30話 暗祈の子

 氷が砕けるような音が、静寂を裂いた。

 薄闇の階段を、五人の足音が慎重に降りていく。

 壁には祈りの文が刻まれ、ところどころ黒く塗りつぶされている。

 それはまるで、神の言葉の中から“都合の悪い真実”だけを削ぎ落としたようだった。


「……嫌な気配がするな」

 ガイアが肩を鳴らしながら呟いた。


「ここ、本当に修道院の地下かよ? 氷の洞窟に祈祷台って、センスがぶっ壊れてるぜ」


「静かに。魔力の流れが乱れてるわ」

 リリィが杖を掲げ、薄い雷光を走らせる。

 壁面に浮かぶ古代語の文字列が淡く光り、空気がひずむ。

そこに刻まれた文言――


『祈りを拒む者は、光を失う』


アレンはその言葉を見て、眉をひそめた。

「“光を失う”、か。……まるで警告だな」


 トレヴァーが短く祈りの文を唱え、結界を確認する。

「封印がまだ生きている。ですが……これを越えなければ先には進めない」


「なら、私がやるわ」

 リリィが前に出た。

 杖の先から溢れる光が古代文に触れ、次々と封印が解除されていく。

 最後の一文が淡く輝いた瞬間、階段の下方から冷たい風が吹き上がった。


 氷と血と、焦げた聖油の匂い――。


 アレンが剣を握りしめる。

「行くぞ。……ここが“暗祈研究”の現場だ」



 階段を降り切った瞬間、光が走った。

 氷の床を滑るように、十数名の聖騎士が円陣を組んでいる。

 白銀の甲冑。胸にはクレイモア家の紋章――“双翼の剣”。


「勇者アレン=ヴァルデン!」

先頭の男グロウスが叫ぶ。

「貴様らの侵入は、聖務への冒涜と見なす! 拘束せよ、“聖女”の命令だ!」


「……聖女?」

 リリィが小さく眉を上げる。


 だが、その名が誰を指すのか、全員理解できなかった。


 アレンは静かに大剣を抜く。

「命令がどうあれ、俺たちに剣を向けるなら――容赦はしない。」


「祈りは武器だ。信じるほどに、鋭くなる」

 副団長グロウスが双剣を交差させ、氷刃を展開した。


「祈れ。凍てつく聖域にて――“聖氷断セイヒョウダン”!」


 氷の波が地を裂いた。

 瞬間、アレンが前へ出て、蒼い残光を描く。


光聖連断こうせいれんだん!」


 光が弾け、五人の聖騎士が一瞬で吹き飛ぶ。


 リリィが続く。

雷撃陣アルカディア――ッ!」

空間を満たす稲妻が縦横に走り、列を焼き払う。


 「おらぁッ!」

 ガイアが雄叫びを上げた。

 床が割れ、残った前列が衝撃波に呑まれた。


 カミラの矢が、宙を飛ぶ影の隙間を正確に貫く。

 トレヴァーが詠唱で仲間を補助し、敵の祈りの結界を無効化する。


 わずか数分――。


「ば、馬鹿な……聖騎士団が、たった数分で……!」

 グロウスの剣が砕け落ちる。


 

「“祈り”を武器にした時点で、あなたたちはもう聖騎士じゃないわ」

 リリィが静かに言った。


 氷の回廊が崩れ、下層への道が開いた。

 彼らが降り立った地下最深部――。


 そこは、聖堂の下にあるとは信じがたい光景だった。

 祈祷台、拘束具、魔導管、そして円環状の魔法陣。

 祈りの声が響くが、それは生身の人のものではない。

 魔導具のスピーカーから流れる、録音された“祈祷データ”だった。


「……祈りすら、魔導具に変えたのか」

 ガイアが呆れたように吐き捨てる。


「これは……人の“信仰”を、実験材料にしたってこと?」

 リリィが震える声で言った。


 中央の祈祷台の上、黒い珠が静かに浮かんでいた。

 それが“暗祈”の媒介――祈りを魔力に変換する翻訳器。


 「これを……神聖と呼ぶのか。」

 トレヴァーが唇を噛む。


 その時だった。

 奥の扉が、音もなく開いた。


 光が差し込み、影が伸び――。

 現れたのは、純白の聖女服を纏う少女だった。

 緑髪が光を受けて揺れ、微笑みながら言葉を紡ぐ。


「……やっぱり来たね、アレン」


 アレンの動きが止まった。

 信じられないものを見たように、目を見開く。

「……エリアス?」


 彼女――エリアス・フェルンは微笑んだ。

 その表情には苦しみがない。

 胸元の王都派遣紋章が、まばゆく光を反射していた。


(拘束も、呪印もなく健康そのもの)

 カミラが冷静に観察する。


 リリィが震える声で問う。

「どういうこと……? あなた、あの夜に――」


「“祈り”が、私を導いたの。」

 エリアスは静かに言った。

 その声は柔らかく、しかしどこか遠い。


「私は、クレイモア家の“暗祈機関”に囚われていたの」

 エリアスの言葉に、全員が耳を傾けた。


 彼女は語る。

 クレイモア家が研究していた“祈りの変換兵器”。

 信仰心を吸い取り、兵器として利用する禁忌の術。

 その研究者としてクレイモア家に無理矢理派遣されて、囚われていたこと。


「でも……あなたたちが来てくれたおかげで、脱出できたの」

 エリアスの笑顔は、眩しいほど純粋だった。


「私は、“祈り”を兵器にすることを止めたかったの」


「……よく生きてたな」

 アレンが呟く。

「怖くなかったのか?」


「怖かったわ。でも、“祈り”を汚す方が、もっと怖かった」


 リリィが何も言えず、ただ見つめた。

 かつての仲間。失われたと思っていた聖女。


「……話はそこで終わりじゃないわよね。 ほん…」

 カミラが低く呟き言葉を続けようとした時。

 天井の魔導陣が微かに明滅し、黒い祈祷珠が震え始めた。


「装置が……勝手に動いてる!」

 リリィの声が響く。


 エリアスが振り向き、青ざめた。

「誰かが外部から再起動した! 制御を奪われてる!」


 轟音。

 祈祷珠が爆ぜ、黒い霧が溢れ出す。

 祈りを失った亡霊たち――“暗祈の残滓”が悲鳴を上げる。


「誰だろうと関係ない。

 ここで止める!」

 アレンが叫ぶ。



 戦闘開始。


 ガイアの大剣〈獅断轟斬〉が霧を切り裂き、残滓を吹き飛ばす。

 カミラの矢が次々と宙を裂き、霊体を撃ち抜く。


 リリィの魔法が全域を照らす。

「光よ、燃え上がれ――〈聖炎ノヴァ〉!!」


 光の奔流が部屋を包み、亡霊が悲鳴を上げながら消えていく。


 その中で、トレヴァーとエリアスが詠唱を重ねた。


エリアス:「主の名の下に、穢れし祈りを還す……!」

トレヴァー:「癒えよ、残滓。祈りは再び“光”へ戻れ!」


 光の波が残滓を包み、静寂が戻る。

 その瞬間――エリアスの胸の秘石が淡く輝いた。


 全てが終わったあと。

 奥の通路に、ひとつの巨大な扉があった。

 封印紋章が刻まれ、中心で微かに鼓動している。


「この紋章……“祈りの階段”で見たものと同じ」

 リリィが指でなぞる。


「つまり、この下に“本当の何か”があるってことか。」

 アレンが頷く。


「……そう。彼らが“主”と呼んでいた存在――

まだ、目覚めていない。」

 エリアスが静かに答えた。


アレン「なら、起きる前に叩く。それが一番確実だろう」


「おう、起こす前にぶっ壊すのが俺たち流だ」

 ガイアが笑い、剣を担ぐ。


 エリアスがふと微笑んだ。

 少し寂しげに。


「ねえ……アレン。もし、この祈りの先に“救い”がなかったら、あなたはどうするの?」


 アレンは剣を握り直し、彼女を見た。


「その時は――俺が救いを作る。誰の祈りも、利用なんかさせない。」


 光が封印を照らす。

 扉の奥から、微かな“心臓の鼓動”のような音が響いた。


 ――トクン。


 闇の底で、“祈りの心臓”が目覚め始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ