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破滅フラグ回避しまくったら、冷徹チートで無双してました!  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第22話 密令 ― 王都の断罪

王都レムナント。

夜明け前の空は、黒と群青のあいだで揺れていた。

濃い霧が街を覆い、尖塔の先端さえ霞んで見える。


王宮の最奥――謁見の間。

高天井の下で、鐘の音が一度だけ鳴り響いた。

それは祈りではなく、“命令の始まり”を告げる音だった。


床に並ぶ燭台が、長い影を投げる。

勇者アレン・クラウスはその中央で跪いていた。

膝の下に冷たい大理石の感触。

そして玉座の上には、王。


彼の隣には、鉄仮面のような表情をした老宰相と、

金の刺繍を施した外套を纏う男――クレイモア公爵が控えていた。


その手には、一通の書簡。


公爵は一歩前に出て、声を低く響かせた。


「王命により、聖女エリアス・フェルンを拘束・連行せよ」


その言葉に、空気が張りつめる。

後方に控えるリリィが、息を呑んだ。


「……拘束?」


「理由は、“闇祈あんき”と呼ばれる禁呪への関与」


公爵は淡々と告げる。

まるで法の条文を読み上げるような、冷徹な声音だった。


「彼女はかつて、王都神殿において祈祷記録の改ざんを行った疑いがある。

 また、数日前、魔族との接触を目撃されたという報告もある」


リリィの目が見開かれる。

「そんな……!」


アレンは一歩も動かず、ただ静かに聞いていた。

その表情には怒りも動揺もない。

ただ、冷えきった沈黙。


王はその様子を見て、口を開いた。


「勇者アレン。お前に命じる。

 “国家の安寧を乱す者”を、見逃してはならぬ」


アレンは深く頭を垂れる。

頭上で、王の金冠がわずかに光を反射する。


「……陛下。確認いたします。

 この命令は、王国の名において――間違いなく、聖女エリアスへのものと?」


「そうだ」


その短い返答に、アレンの眉がわずかに動く。


沈黙を破ったのは、リリィだった。


「そんなの嘘です! エリアスが禁呪なんて使うわけない!」

銀髪を振り乱して叫ぶリリィに、近衛兵が反応する。

剣の刃が、反射した灯を散らした。


「控えろ!」


一斉に動く甲冑の音。

その場の空気が、一瞬にして“戦場”のそれに変わる。

カミラが素早くリリィの腕を掴んだ。


「やめなさい、ここでは無意味」

「でも――!」

「感情で動けば、今度は私たちが敵になる。

 少なくとも、今は“敵の顔”を確認してからにしなさい」


リリィは唇を噛み、俯いた。

その肩をトレヴァーが押さえる。


「……今ここで剣を抜けば、エリアスどころか、私達も“粛清”されます」


「そんな理屈、わかってる……でも、納得できない!」


アレンはそのやり取りを黙って聞いていた。

彼の視線は、ただ王の顔を見据えていた。


「勇者よ」

玉座の上から、低い声。


「お前はかつて“選ばれし者”として聖剣を授かった。

 だが、情に流されれば剣は鈍る。国家の秩序は、一人の少女より重い」


その言葉に、リリィが震えた。

アレンの拳が、かすかに握りしめられる。

王の隣で、クレイモア公爵が微笑を浮かべた。


「陛下の仰る通り。聖女と呼ばれた者が闇祈に染まるなど、笑止千万。

 勇者殿、あなたの剣でその汚れを断ち切ることこそ、真の忠義です」


アレンの瞳が、静かに彼を射抜いた。


「……忠義、ですか」

「ええ、勇者殿。貴方の剣は、国のためにあるはず」

「それが“国”の意思なら――」


アレンはゆっくりと立ち上がった。


「俺は、その“国”の目を確かめる必要があります」


一瞬、空気が変わる。

宰相が顔をしかめた。


「勇者、それは命令への疑義か?」


「確認です。彼女が“裏切り者”なら、俺たちがそれを確かめる」


「断罪は王が下すものだ!」


「断罪する前に――俺たちが見極める」


王は玉座に身を預けたまま、ゆっくりと息を吐いた。


「……貴様の態度、あまりにも軽率だ」


アレンは一歩進み、深く頭を下げた。

「御意。ですが、俺たちは彼女と共に戦った。

 その誇りと絆を、命令ひとつで捨てることはできません」


「勇者アレン!」

宰相が声を荒げる。

「その言葉は反逆に等しい!」


だが、アレンはまっすぐ王を見た。

「それが反逆なら――俺は喜んで、反逆者になります」


空気が凍りつく。

近衛兵たちが一斉に剣を構える。

リリィが息を呑み、カミラの目がわずかに光る。


王の声が、低く響いた。

「命令違反だぞ、勇者アレン」


「構いません」

その答えは、あまりにも静かだった。

「俺の剣は、仲間のためにあります」


玉座の階段を、一歩、また一歩と上がる音。

誰も動けなかった。

アレンの視線は王を通り越え、玉座の背後に広がる“国の象徴”――

巨大なステンドグラスに映る朝の光を見つめていた。


その瞳は、まるで“希望”そのものを睨んでいるようだった。




王都を出る前夜。

静寂に包まれた廃教会の地下で、アレンはひとり灯火を見つめていた。

揺らぐ炎が彼の瞳に映り、影が壁に伸びる。

外では、鐘の音が遠く鳴り響いている。――まるで、誰かの命を告げるように。


そこへ、扉がきしみ、仲間たちが入ってきた。

革靴の音、金属の擦れる音。長旅に備えた装備の音が、空気を震わせる。


アレンは静かに立ち上がると、背を向けたまま言った。


「……この先、俺たちは“反逆者”になる。それでも行くか?」



沈黙。

短い沈黙のあと、リリィが一歩踏み出した。

彼女の銀色の髪が、焔の明かりで揺れる。


「当然よ。私が彼女を信じないで、誰が信じるの?」


その声には、怒りとも悲しみともつかぬ熱が宿っていた。

エリアス――仲間であり、いま“裏切り者”の汚名を着せられた少女の名が、誰の口にも出せないままに場を支配していた。


カミラが腕を組み、短く息を吐く。


「情報が不十分だけど、エリアスが仲間に間違いはない。

あの目を、私は信じた。――それだけで十分。」


ガイアは拳を鳴らした。

筋肉の鎧がきしむような音が響く。


「王だろうが神だろうが、仲間を売るような真似はしたくねぇ。

オレたちが“勇者一行”って呼ばれてた頃の誓い、忘れちゃいねぇだろ?」


トレヴァーは微笑を浮かべ、ゆっくりと杖の柄に手を置いた。

彼の声は静かで、どこか儀式のように整っていた。


「……ええ。仲間のためなら、命など惜しくはありません。

“聖剣”が示した道が間違っているなら――正すのは我々自身です。」


アレンは皆の顔を見回した。

炎が、仲間たちの瞳に反射している。

それぞれが異なる信念を抱え、それでも同じ方向を見ている。


「全員、同じ気持ちだな。なら――やる。」

拳を強く握り、アレンは言葉を続けた。

「彼女を“裏切り者”に仕立てた奴が王だろうと、断罪してやる。」


その瞬間、誰も言葉を発さなかった。

ただ、炎の音だけが、彼らの誓いを記録するようにパチパチと響いていた。

外では風が吹き荒れていた。

夜の王都が、まるでこれから起こる“嵐”を予感しているかのように――




場面は変わる。

王都郊外の高台――風の強い丘の上。


遠くで馬車の灯が揺れながら、黒い道を走り抜けていく。

ルシアンはその光を見つめて、薄く笑った。


「……動いたな、クレイモア公爵家。」


淡い月光が彼の頬を照らす。

その瞳は、どこか冷めた観測者のように静かだった。


「アニメ『聖剣勇者アレン』の時も、同じ展開だったな。

密命だの裏切りだの、テンプレ通りで笑えてくる。」


口調は軽い。だがその声の奥に、かすかな痛みが滲む。

彼は、まるで脚本家でもあるかのように世界を俯瞰していた。


「しかし、時期が違いすぎる。

本来ならセリーヌ王女舞踊編のはずだ。

――アニメ第1話“北の砦のすぐ後になるなんて、どういう改変だ?」


彼は頭をかき、夜空を見上げた。

星々が散りばめられた空の下で、風がマントを揺らす。


「しかもエリアスが聖女だと、何故かネタバレもしてるしな!!」


声を荒げた瞬間、彼は自分で吹き出した。

「はは……ほんと、脚本家の気まぐれってやつか。」


その笑みは皮肉と、どこか哀しみを含んでいた。


彼の視線の先――遠く、夜道を駆け抜ける五つの影が見える。

アレン、リリィ、カミラ、ガイア、トレヴァー。


彼はその行方を見送るように目を細めた。


「行け。

お前たちの“選んだ物語”が、俺の知る結末と違うなら――

それは、たぶん……聖女エリアスがまだ、救われる余地があるってことだ。」



風が吹き抜ける。

夜明けの気配が、東の空を淡く染めていく。


ルシアンは、ゆっくりと懐から一枚の古びたメモを取り出した。

そこには、手書きの文字でこう記されていた。


『裏切りの祈り 改稿版:第十三稿』


彼はその紙を破り、風に放つ。

紙片が舞い、光を反射しながら空に消えていく。


「さぁ――新しい“脚本”の始まりだ。」


夜が、終わる。

そして、物語が再び“書き換わる”音が、確かに響いていた。




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