第19話 北の砦 ― 地竜変異種後編
夜の北の砦。
半壊した石壁は砂煙に霞み、血の匂いが戦場を覆っていた。
轟音が夜空を切り裂く。地竜変異種の尾が振り下ろされるたび、石壁が粉々に砕け、兵士たちは絶叫した。
「もう持たないぞ!」
「逃げろ、壁が落ちる!」
恐怖に歪む兵士たちの声が戦場に響く中、アレン・ヴァルデンは剣を握り直した。額に汗が滴り落ち、蒼い瞳に決意の光が宿る。
「まだ終わらせない……! 俺たちがここで止める!」
隣に立つガイア・ブライトハンドが頬を伝う砂を払いながら言った。
「恐れるな、前線は俺に任せろ!」
アレンは仲間たちの視線を感じ、胸が締め付けられる思いだった。勇者としての責任感と焦燥が入り混じる。
空中で竜が唸り、尾を振るう。
そのたびに砦の一部が崩落し、砂煙と瓦礫が戦場を覆った。
地竜の大口が開き、灼熱の炎が砦に向かって吹き付けた。
「聖なる光よ、盾となれ!」
エリアスは両手を掲げ、光の結界を張った。
炎が結界にぶつかり、轟音と共に砕け散る。
しかし、その反動で腕に裂傷が走り、鮮血が迸った。
「エリアス!」
リリィ・セントローズが駆け寄ろうとするも、首を横に振る。
「大丈夫……まだ立てます……! ここで退けば、皆が……!」
彼女の必死の表情に、仲間の胸が締め付けられる。
トレヴァー・シルバーホークも走り寄り、柔らかい声で言った。
「癒しは任せて……ヒール、神聖結界で支える」
リリィは杖を握り、呪文を唱える。
「炎弾・連撃、氷柱降下、雷槌・轟雷……ここで倒すわ」
カミラ・ナイトウィンドは崖上から戦況を見据え、影刃弓を引き絞る。
「矢で隙を作る……影矢、連弾射、魔矢融合……私が守る」
砦の破片が散る中、アレンは深呼吸して剣を握り直した。
「全員、聞け! 一人ずつ潰される前に、全力で連携するぞ!」
ガイアが大剣を振り上げ、轟く声と共に突撃する。
「喰らえ! 破壊衝撃ッ!」
地竜が振り向き、巨体を揺らす。その瞬間、カミラの矢が光のごとく飛んだ。
「狙いを外さない……影矢ッ!」
続けて複数の矢を放ち、竜の視界を分散させる。
「魔矢融合・氷属性!」
リリィの魔法が追撃する。
「業火よ、竜を穿て! 炎柱穿撃!」
灼熱の柱が鱗の隙間を焼き裂き、竜の動きを鈍らせる。
アレンは深く息を吸い、蒼い剣を光らせる。
「今だ、蒼刃・連斬ッ!」
光の刃が竜の鱗を切り裂き、赤い血が飛び散る。
トレヴァーは前線に走り寄り、仲間を補助する。
「防御強化・ガーディアン!」
アレンとガイアの前衛が一瞬の隙を作り、連携攻撃を可能にする。
エリアスも腕の傷を押さえながら結界を補強した。
「光の結界・聖光の護り……全員、支える!」
砦の瓦礫が飛び交う中、勇者たちの技が渦のように絡み合い、戦場に一瞬の希望の光をもたらす。
ガイアが大剣を振り下ろす。
「喰らえ! 連撃斬!」
竜が咆哮を上げ、地面を揺らす。
カミラは再び矢を放つ。
「連弾射、氷矢融合ッ!」
リリィが杖を掲げ、範囲攻撃を放つ。
「炎弾連撃、雷槌・轟雷……ここまでよ!」
アレンが剣を高く掲げ、全力の一撃を放つ。
「蒼天裂斬ッ!」
光の刃が竜の傷口に深々と突き刺さり、巨体が崩れ落ちる。
砦に静寂が戻る。
砂煙の中、勝利の余韻と代償が混ざり合う。
兵士たちは歓声を上げた。
「勝った! 勇者様が竜を倒したぞ!」
アレンは剣を収め、仲間を見回す。皆、傷だらけだがまだ立っていた。
「……よくやったな」
エリアスは片膝をつき、血を握り締める。限界を超えた身体が震えていた。
丘の上。
ルシアン=ヴァルグレイは黒衣を翻し、静かに掌を叩いた。
「見事だ、勇者。だが代償もまた、大きい……その痛みがお前たちをどう変えるか、楽しみだ」
夜風が闇に溶け、影のように彼を覆った。
戦場に静けさが戻るも、砦の残骸と地竜の影が夜空に残る。
仲間たちは互いの傷を確かめ合い、士気を回復させる。
カミラは崖の上から静かに言った。
「……私は、まだ射ち続けるしかない」
アレンは静かに答える。
「次の戦いも、俺たちで乗り越える……必ず」




