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破滅フラグ回避しまくったら、冷徹チートで無双してました!  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第14話 勇者パーティー遠征開始

白霧が森を覆い、足元まで見えぬほど濃く漂っていた。

 風が止み、鳥の声すらない。森はまるで息を潜め、何かを待っているようだった。


「……嫌な気配だな」

 アレンが剣の柄に手をかけ、霧の向こうを睨む。

 彼の周囲に、勇者一行の仲間たちが陣形を整えた。


 リリィが小声で呟く。「この霧……魔力を含んでる。自然のものじゃないわね」

 ガイアが豪快に笑う。「上等だ。霧の中でも、斬る音さえ響けば十分だ!」


 その瞬間――。


「来るぞ、左右から三体、後方一体!」


 アレンの鋭い指示と同時に、霧を割って影が飛び出した。

 黄金の眼を持つ巨大な狼、魔狼ダイアウルフ。牙が光を反射し、空気を切り裂く。


「うおおおおおッ!!」

 ガイアが前へ踏み込み、大剣を振り抜いた。

 轟音――地を震わせる一撃で、突進してきた一体が真っ二つに裂ける。

 血飛沫が霧に溶け、紅い霞となって漂う。


「数、まだいる! 囲まれてるわ!」

 リリィが詠唱に入る。杖の先に雷光が集い、空気が震えた。

 「――雷よ、鎖となれ! ライトニング・バインド!」


 青白い閃光が走り、狼たちの身体を縛る。

 雷鳴が森中に響き渡り、金属のような悲鳴が重なった。


「右側抜けた! 任せろ!」

 トレヴァーが槍を掲げ、神聖光を纏う。

 「――ランス・レイディアント!」

 放たれた聖槍が光の尾を引き、突き抜けた狼を一撃で貫いた。

 爆ぜる光が霧を吹き飛ばし、地面に焦げた跡を残す。


 その影からさらに一匹――。

「狙撃位置、確保」

 カミラが無駄のない動きで弓を引き絞る。

 息を止め、放つ。

 “ピシィッ”――音すら鋭く。

 矢は霧を裂き、狼の片目を正確に射抜いた。

 「一射必中……次」


 だが、霧の中から咆哮が重なる。

 五匹、いや十匹。包囲網が狭まっていく。


「エリアス、後衛を守れ!」

 アレンの声に、白衣の僧侶が即座に祈りを捧げた。

 「――聖女の加護よ、光の環となりて我らを守れ……ヒール・サンクティ!」


 眩い白光が仲間全員を包み、空中に魔法陣が浮かぶ。

 足元に円陣が展開し、狼の牙が触れた瞬間――。

 バチンッ! 弾けるような光が狼を吹き飛ばした。


「……結界が、強い……!」

 リリィが驚きの声を漏らす。

 エリアスは静かに微笑んだ。

「皆様の力を繋ぐのが、私の務めです」


 ガイアが豪快に笑う。

「気に入った! なら派手にやるぞ!」


 アレンが剣を構え、仲間を見回した。

 「全員、中央に集まれ――反撃開始!」


 五人の動きが交差する。

 剣閃、雷撃、聖光、矢、風――。

 霧が弾け、森が閃光に包まれた。

 魔狼の群れが突進し、勇者たちが迎え撃つ。


 雷が地を這い、炎が空を裂く。

 カミラの矢が稲妻を追い、リリィの魔法陣が展開する。

 トレヴァーの槍が光を放ち、ガイアの剣が爆風を巻き起こす。

 アレンは跳躍し、霧の上へ――。


「これで終わりだ! ――蒼天裂斬!」


空中で剣を掲げ、聖光を収束させた。

白金の光柱が天を貫き、森を照らす。

 爆発的な轟音が鳴り、魔狼の群れが一瞬で消滅する。

 残ったのは、光と風の余韻だけだった。


 沈黙。

 そして、ガイアが肩をすくめた。


「派手にやりすぎだろ……アレン」


 アレンは苦笑しながら剣を納めた。

 「だが、被害ゼロだ。上出来だろ?」


 リリィが髪を払って笑う。

「でも、綺麗だったわ。まるで祝福みたい」


 トレヴァーが小さく頷く。

「戦闘評価……十分。僧侶の対応力、特筆すべきだな」


 エリアスは静かに微笑み、胸に手を当てた。

 「皆様の力が、一つになったからこそ。――それが、女神の導きです」


 その言葉に、アレンは穏やかに頷いた。

 霧が晴れ、朝の光が森を照らす。

 遠征初日の戦いは、確かな勝利で幕を下ろした。



夜の森は、まだ血と焦げた毛皮の匂いを残していた。

 倒れ伏した魔狼の群れは、霧と共に溶けていく。

 代わりに、焚き火の灯がパチパチと乾いた音を立てていた。


「……ようやく、終わったな」

 ガイアがどっかと地面に腰を下ろし、大剣を突き立てる。剣身には返り血が乾きかけていた。


「お疲れ様です、ガイアさん」

 エリアスが穏やかな声で微笑みながら、聖水で彼の腕の傷を拭う。

「軽い切り傷ですが、放っておくと化膿しますよ」


「おいおい、まるで子ども扱いじゃねぇか」

「あなたが怪我をするたび、仲間の心臓に悪いんです」

「……チッ、言い返せねぇな」


 ガイアが舌打ちしつつも、どこか照れたように笑う。

 その横で、トレヴァーが槍を磨きながら呟いた。


「悪くない連携だった。エリアス、結界の展開が速かったな」

「トレヴァーさんが前線を抑えてくださったおかげです」

「……いや、あれは君が支えたから成立した。お互い様だ」


 短い会話だったが、そこに確かな信頼の温度が宿っていた。

 火の粉が舞い、空には満ち欠け途中の月。

 リリィが薪を足しながら、ため息をつく。


「ふぅー……やっぱり、北方の魔獣は手強いね。あんな連携、まるで訓練された兵隊みたい」

「群れの統率が取れてた。牙王ファングロードの支配が強かったんだ」

 アレンが火の向こうから答える。鎧を脱ぎ、肩口の包帯を確かめながら。

「だけど、倒した。今回はそれで十分だ」


 リリィが微笑み、頷く。

「うん……そうだね。でも――」

 彼女の視線が、少し離れた岩の上に向いた。


 そこには、カミラがひとり、弓を磨いていた。

 炎の光が彼女の頬を淡く照らす。金髪が風に揺れ、月明かりを撫でるように反射する。


「カミラ。こっち来ないの?」

 リリィが呼びかける。

 しかし、カミラは顔を上げず、短く答えた。


「癖なの。弓は、休ませる前に必ず整える」

「……また一人でしょ。それも癖?」

「たぶん」


 淡々としたやり取り。けれど、ほんの一瞬、カミラの唇が僅かに震えた。

 リリィはそれに気づいたが、何も言わず薪をくべた。


 アレンは焚き火越しにカミラを見つめていた。

 その瞳には、どこか切なさと理解が混じっている。


(彼女は……自分の居場所を探しているんだ)


 カミラは誰よりも正確な射撃を誇る。だが、誰よりも心に距離を置いていた。

 仲間と笑い合うことを恐れ、心の温度を抑えるようにしている。


 夜風が、静かに木々を揺らした。

 その音がまるで、遠い記憶を呼び覚ますようだった。

 カミラの指が震え、弦を撫でる。火の粉が一粒、空に舞い上がった。

  アレンは視線をそらし、火を見つめた。

 リリィが肩にもたれ、囁く。


「アレン、眠れないの?」

「いや……ただ、風の音が耳に残ってな」

「ふふ、またリーダーぶって。ほんとは心配なんでしょ」

「……ああ。仲間だからな」


 リリィが優しく微笑む。

 焚き火の火が、仲間たちを温かく包み込んだ。


 ――けれどその炎の届かない闇の奥で、別の炎が、静かに揺らめいていた。






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