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転生しました。

気がついたら知らない天井。

いや、ほんとに知らない。漆喰の壁にシャンデリア、ふかふかのベッド。

昨日までワンルームの六畳間で寝落ちしてた俺には、場違いすぎる光景だ。


「おめでとうございます、勇者様!」

扉を開けて入ってきたのはドレス姿のお姫様。


――ついに来たか。異世界転生。

俺のチート能力が火を噴くときだ!


「勇者様のお名前を教えていただけますか?」

「えっと……田中です」


お姫様の笑顔がピタリと止まる。


「……え? 田中?」

「はい、田中です。田中太一。どこにでもいる田中です」


空気が凍った。神官も兵士も、誰もが「田中って誰だよ」って顔をしてる。

やめてくれ、俺だって一番そう思ってる。


神官が慌てて水晶に触れると、光がふわっと俺を包む。

そして響き渡るステータスの読み上げ。


「職業:村人A。スキル:米を研ぐ(小)。」


……。


「いやいやいや! それどう考えてもモブ枠でしょ!」


お姫様も兵士もズッコケた。勇者召喚で何やってんだ王国。


こうして俺の異世界ライフは、勇者でも魔王でもなく――モブとして幕を開けたのであった。


「えっと……まず何すればいいんですかね?」

村人Aの俺は、とりあえず首をかしげる。

だってステータスに書かれてる通り、特に何の才能もない。魔法も戦闘もゼロ。あるのは「米を研ぐ(小)」スキルだけだ。


だが、ここは異世界。村の人々は俺を見て「おお、勇者が来た!」と祭り上げる。

「ちょ、俺モブなんですけど!」

叫んでも誰も聞いてない。どうやら、王国の神官が間違えて召喚したらしい。


初日から俺の仕事は、村の台所で米研ぎ。

……って、なんで勇者召喚されて即台所!?


ところが、米を研いでみると意外なことに気づく。

水の流れ、手の角度、研ぐ速度――微妙な調整で、飯の炊き上がりが村一番になるのだ。

「……これ、もしかして俺、無双してる?」


翌日、村人たちはこぞって朝食を食べに来る。

「田中さんの米、うますぎる!」

「勇者様、今日もご飯を!」


……あれ、勇者スキルじゃなくても、田中スキルだけで村を制圧できるんじゃ……?


俺、モブなのに、ちょっと楽しくなってきたぞ。


ある日、村の外れの森で、奇妙な鳴き声が聞こえてきた。

「……誰か、助けてる?」


好奇心旺盛な村人たちは怖がって逃げる中、俺――モブ田中は、ちょっと面倒だなと思いながらも足を向けた。

「ま、米研ぎで無双した俺なら、この程度……」


森の奥に進むと、小さな魔物が村の荷馬車を襲っていた。

戦う気力ゼロの俺は、とりあえず米を研ぐ要領で手元の棒を振る。


すると不思議なことに、棒さばきが絶妙で、魔物は次々に倒れていく。

「……え、これ俺の“モブスキル”強すぎない?」


しかも、倒した魔物の肉を手早く焼くと、村人が大喜び。

「田中さん、さすが勇者様!」

いやいや、モブなんだけど……。


その後も、森の小物魔物や盗賊の襲撃に、俺の「米研ぎ(小)+偶然の戦闘センス」で立ち向かう日々。

――どうやらこの世界、モブでも全力で生きれば結構いけるらしい。


そして村人たちは知らない。

「米を研ぐだけのモブ」が、実は小規模バトルなら無双できる、異世界最強の隠れ能力者だったことを。


ある朝、村の長老が真剣な顔で俺を呼んだ。

「田中よ、森の奥に小さな洞窟が現れた。探索してくれんか」


俺「……またか。米研ぎだけでいいと思ったのに」


だが、村の期待は俺の“モブ力”にかかっている。

仕方なく、棒一本と弁当だけ持って洞窟へ。


中は薄暗く、湿った空気が漂う。

「……うわ、足元滑る」

最初の罠は、落とし穴だった。

だが田中スキル発動――「米研ぎ(小)」で鍛えた手先の器用さが光り、石を踏んで軽くジャンプ。難なく回避。


奥に進むと、小型スライムが2匹待ち構えていた。

俺「なるほど、初戦闘か。どうせ倒すだけなら――」

棒を振ると、なぜかスライム同士がぶつかって潰れた。

「……あれ、俺つえぇ?」


さらに進むと、小さな宝箱が置かれている。

中身は……腐りかけのパンと水。

……モブあるあるすぎる。


だが、洞窟の最深部で事件発生。

大きめのゴブリンが立ちはだかり、威嚇してくる。

俺「……こいつ、ちょっと大きいな」


棒を構え、息を整える――そして、何気なく振っただけで、ゴブリンが自爆的に転倒。

どうやら狭い洞窟での体勢が悪かったらしい。

俺「……運? いや、モブ力ってやつだな」


洞窟を制圧し、無事帰還した田中は、村人たちの大歓声を浴びる。

「田中さん、すごすぎる!」

「勇者様、また無双ですね!」


俺は心の中でそっと呟く。

「……米研ぎ(小)で、人生変わるとはな」


こうして、モブ田中の小規模ダンジョン無双ライフは、静かに、しかし確実に始まったのであった。

















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