7話 クーデター
僕はその後、結局王女様に城へお持ち帰りされた。
王族が乗る馬車の乗り心地はとても良かった。
横でぺちゃくちゃと自慢話を聞かせてくる少女さえいなければ。
「ここがあなたの部屋よ」
僕は王女様に案内され、部屋へ入った。
「お、おおぉ?」
どんなすごい部屋が待っているかと思えば、そこはただの独房だった。
部屋は小さく、蜘蛛の巣が張り巡らされていて、そんな中質素なベッドが一つ。
「え、本当にここに住むんすか」
「当たり前じゃない」
「あ〜〜」
僕は全力疾走で逃げた。
あんな牢獄みたいな場所、住めるか!
「ま、待ちなさいっ!」
後ろから王女様の情けない声が聞こえる。
「うっせ〜ばーか!」
これで自由だ!
そう思った瞬間。
「ふん」
逃げた先には、僕を見つめる完全武装の兵士たちが立ちはだかっていた。
「あ、と、トイレ行きたいなぁ」
僕はゆっくりとその場から去ろうとしたが、首根っこを掴まれそのまま連れ戻された。
「それで?」
「い、いやー、トイレに行きたくて……」
「へぇ、それでうっせーばかって言ったのね」
王女様の鋭い視線が刺さる。
あ、これまずい。
処刑だけは、処刑だけは勘弁して。
「そ、その王女様、この度は誠に申し訳ございませんでした」
僕はとりあえず頭をついて土下座した。
「本当に恥のない人だわねっ」
王女様はそんなことを言いながら僕の頭を踏みつけた。
こいつふざけやがって……。
「あれれ、もしかして怒ってるのかしら?」
「なにもできないくせに」
こいつ、ブサイクなくせにムカつくな。
いや、顔自体はいいんだよ。でもこいつとにかく髪型が合ってない。
なんだこの芸術作品みたいな髪型は。毎日セットに何時間かけてんだよ。
「ふーん、反抗的な顔ですわね」
「ていうか、僕たち前どこかで会ったことある?」
ふと気になり質問してみる。
「話を逸らすのはやめてもらえる?」
「ないか……」
なんか見たことあるような顔してるんだけどな。
「もう帰っていい?」
「良いわけがないでしょう」
すると、横で見ていたカルトが話に介入してきた。
「まあ、ここで譲れる方が、大人な人なんでしょうねぇ」
カルトは視線を逸らしながらそんなことを呟いた。
その話に乗らせてもらうぜ。
「確かにね、まあしょうがないよね。わがままで子供なんだから」
「僕はもう心が大人だし、あの部屋でいいよ。子供に譲るのが大人の役目だからね」
僕は王女様を見ながらやれやれと動作し挑発した。
すると王女様はまんまと僕の挑発に乗ってきた。
「ちっ、わかったわよ」
「私の方が大人だし、ここは子供に譲ってあげる」
「えー、ほんとにー?」
「やったー」
「なんかわざとらしいけど、まあいいわ」
こうして僕は、カルトの協力のおかげで第一次王女対戦に勝利したのだった。
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そんなこんなで1ヵ月が過ぎた。
「ほんと、過酷ですよね」
隣に座わってそんなことを言うのは、唯一同い年の男のジョン・ジョンソン
僕が入って1日後くらいにこいつも入ってきた。
自ら兵士に立候補し、若さを買われて試験に受かった、いわゆるモブだ。
兵士はあまり重要がなく、若い人はほとんどいない。
「休みくらいほしいよね」
とは言えもちろん僕は、王女様から特別扱いを受けていてとても楽。
ーーなんてことはない。
僕はまずあれから王女様と話してすらいない。
「正直、王女様のことどう思います?」
「まあ、あの人はあの人で頑張ってるんじゃない?」
「そうですかね? 全て僕たちに任せて寝てるんじゃないですかね」
昼食をとりながら、そんなジョンの愚痴を聞く。
僕たちのやることは訓練だけじゃない。
王女様の欲しいものを買いに行ったり、部屋を掃除したりとこき使われているのだ。
「ていうかなんでいつも敬語なの?」
「同い年でしょ」
「いやいや、ルトラくんは優秀ですから僕なんかがタメ口なんて」
ジョンはそう言って気まずそうに微笑む。
「まあ、別に僕は何でもいいんだけど」
「昼食の時間は終わり! 配置につけ!」
と、僕たちは隊長の声を聞き、パンを口に詰めん込んで急いで戻った。
この人はミルド・ブラウン。
王女様護衛部隊の隊長で体がデカく、力が強い。
その上、魔術の腕も一級品だ。
「腕立て伏せ!」
「「いち! にい! さん!ーー」」
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「今日も大変でしたね」
「そうだね」
正直言って訓練は余裕だ。
いつもやってる自主トレーニングの方がきついくらい。
でも疲れたフリをしておく。
僕は期待されるのがとても嫌いなんだ。
「それじゃあまた明日です」
「うん」
そのまま振り向くと何かにぶつかった。
「うおっと、すいませーー」
「って、王女様じゃん!」
そこには眉を顰め、なにやら不満げな顔をした王女様が立っていた。
「あなた……大したことないわね」
「久しぶりに出てきたと思ったら一言目がそれですか」
「私、あなたをかなり買い被っていたみたいだわ」
「はあ」
いつも通り、腕を組んで偉そうに言うと僕の顔を凝視し始めた。
いい感じに普通のイメージが定着しているようだ。
「なんか、すごく変だわ」
「そうですか、ちょっとよくわからないですけど、期待を裏切ってしまったようですみません」
「すごく反省しなさいゴミカス」
自分で謝っといてなんだけど、ひどくね?
表情ひとつ変えないのがまたうざい。
「それじゃ」
僕も流石にめんどくさくなり、もう帰ることにした。
「んん!!」
もうかまってちゃんかよ。
「まだなんかあるんすかーー」
「って……」
振り返るとムキムキな男が王女様の口を押さえ、僕の顔を睨んでいた。
そして、なにより驚いたのはその男が部隊長、ミルド・ブラウンだったことだ。
「た、隊長?」
「……すまない」
「へ?」
僕は首をぽんと叩かれ、意識を失ったーー
と思ったら耐えてしまった。
「グ、グハ」
とりあえず僕の名演技で意識があることはバレずに済んだ。
「もう、制圧は完了したか」
「はい、王女側の人間は全て捕らえました」
ミルドと、こいつは確か副隊長のガミルかな。
なんで僕、勝手に王女側にされてるんだよ。
「その者は?」
「こいつは王女との関係性が強いからな」
「あー」
するとガミルは察したような反応を見せる。
関係性が強いから何? 何されるの?
続きを話してよ!
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「目を開けろ」
そんな隊長の声を聞き、ゆっくりと目を開ける。
「な、なによこれ!」
そこはよくわからないものが、たくさん飾られた玉座の間で王族たちに手錠がかけられ、並べられていた。
ミルドの周りは兵士で囲まれており、戦力差は明らかだ。
ていうか、なんで僕まで捕られているのだろうか。
「これより王族たちの処刑を始める」
王様の椅子に座るミルドが声を上げる。
「は? ふざけるのも大概にしなさい!」
「今すぐ手錠を解きなさい!!」
ミルルの声に賛同して王族たちは声を上げ始める。
だが、ミルドはバッと立つとそれを掻き切った。
「だまれ!! 死にたいやつだけ声を上げとけ」
「え、なんで? 僕王族じゃないけど」
「お前は王女との怪しい交流が見えたからな」
「は? ふざけんなって」
「弱者は強者に逆らえない」
なんか変な勘違いされてるな。
弱者は強者に逆らえない、ね。まあ確かに全くその通りだ。
「あっそ、なら死ーー」
「待ってください!」
「ルトラくんは! ルトラは友達なんです!」
その時、目を逸らして隅に立っていたジョンが必死に声を上げた。
「捕まえろ」
「待って! 待ってください!!」
だが、隊長はそれを全く聞き入れず、暴れるジョンの身柄はあっけなく捕らえられた。
ったく、あいつなにしてんだよ。
「おい、そいつはもう始末していいぞ」
1人の兵が銀色の剣を取り出し、ジョンの首に刃を置いた。
まあ僕を助けようとしてくれてたみたいだし、助けてあげるか。
「ウォーターワーム」
僕は呆れつつも詠唱すると…。
よし、これで殲滅。
ってあれ? 発動しない?
「お前はアホなのか? 魔力封じの手錠をかけているのに決まっているだろ」
魔力封じ……?
「おい、ふざけるな! 早く私たちを解放しろ!」
すると、白い髭が特徴の王様が唾を撒き散らして声を荒げた。
「さもなくば、貴様ら全員皆殺しじゃぞ!」
「ふふふふ、皆殺し? それは一体誰がやるんですか?」
それを聞いて後ろから新たな男が登場し、そんなことを言った。
「だ、誰じゃ貴様!」
いかにも悪役のような歩き方で登場しながら男は言った。
「私はワルワル王国、第一王子、トテモ・ワルワル」
男は伴った前髪を靡かせ、悪者っぽく笑った。
「もしや貴様……!」
「それでは処刑を始めましょうか!」
男は王様の話を遮るように処刑を宣言すると、そのままジョンのほうに歩いて行き、顔を近づけ言った。
「君、反逆したんでしたね?」
「ひい!」
ジョンは体をぶるぶると小刻みに震わせ、後退りした。
ごめん、どうやらお前、死ぬみたいだわ。
「ま、待っーー」
トテモは自然に兵から剣を取ると、ジョン目掛けて振り下ろした。
剣はそのままジョンの体を切り裂いた。
はずだった。
ジョンの体に触れる寸前で剣は止まり、砕けた。
「な、なんだお前は!」
天使、いや翼を生やした女性。
女性は躊躇うことなく、白く長い剣で主犯格であろう男の首を落とした。
「盟約に基づき、アンゲル、参上致しました」
こ、こいつ、アルゲンじゃん!
せっかく登場した敵役新キャラが、アルゲンの登場で一瞬で片付いちゃったよ。
それにしても今の速さ。
僕が本気で戦っても勝てない。いや、全く歯が立たないだろう。
「命令が確認できませんので、ドルミレを発動します」
なんだドルミレって?
なん…かの魔術……か…。
意識が……。




