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蔑視の強い第一王子に婚約破棄後国を追い出され他国王子の側近に拾われて他国へ行き騎士と恋に落ちて子供を身籠ったが身を隠し我が子を育てるも見つかりはしたが愛はここだけ

作者: リーシャ

愛しいものを見る目は温かくて、いつまでも見つめていたい。


余計なものが入り込む前に。


人生とはなにがあるか、本当にわからない。


後の人生で、そう思いながらあなたを見つめる。


その日は、無駄に天気の良い日だった。


「というわけで、貴女との婚約は破棄させてもらう。これは決定事項だ」


冷たい声が、広大な王宮の応接室に響き渡った。


ビュリスは、目の前に立つ第一王子、ガイルハミの顔をただ静かに見つめ返す。


何も言わず。


何も求めない。


整った顔立ちは相変わらずだが、その瞳には微塵も温かい光は宿っていない。


無関心だ。


(やっぱり、こうなるのか)


ビュリスは、どこか他人事のようにそう思った。


ため息をこぼすことはしない。


前世の記憶が蘇ってからというもの、いつかこの日が来ることは分かっていた。


なにせ、この国は女性蔑視が根強く残っている。


優秀なビュリスが一人で公務をこなしている現状を、ガイルハミは面白く思っていないのだ。


ならば、やれと思う。


そんなに嫌なら、彼がやればよかったのだ。


いずれ、ビュリスがいなくなればこの国は傾くだろうに。


そう思いながらも、何も言わなかった。


蔑視が残る思考には、全てを跳ね除ける病でもあるのだろう。


言っても無駄だとわかっている。


「婚約破棄は承知いたしました」


ビュリスがそう答えると、ガイルハミは満足そうに頷いた。


「ならば、速やかに王城から出て行ってもらおう。お前のような役立たずは、王家には不要だ」


その言葉に、ビュリスの心は微かに痛んだ。


それでも、表面的には平静を装う。


それにしても、役立たずは自己紹介だけにしてほしい。


「承知いたしました」


しかし、ビュリスにとって更なる追い打ちが待っていた。


馬車で送られて来た道を帰される。


実家である侯爵家に戻ると、両親は冷たい視線を浴びせてきた。


「婚約破棄などという恥を晒した娘は、わが家には置けない!」


よく言えたものだ。


逆に感心する。


行く当てもなく、ビュリスは王都を後にした。


とはいえ、行くところはないが。


一人でこなしてきた公務のおかげで、いくらかの蓄えはあったものの、この先どうすればいいのか全く見当もつかない。


粗末な服に着替えて進む。


途方に暮れながら、あてもなく歩いていたビュリスの前に、一台の立派な馬車が止まった。


「お困りのご様子。もしよろしければ、お話をお伺いしても?」


馬車から降りてきたのは、穏やかな笑みを浮かべた男性だった。


警戒はしておく。


どこか見覚えがある。


そうだ。


以前、隣国の王子が国賓として滞在した際に、その側近を務めていた人物では。


「わたくしは、エルネストと申します。隣国、オーベルネア王国の第二王子、セオドア様の側近を務めております」


ビュリスが事情を話すと、エルネストは同情の色を浮かべ。


「もしよろしければ、オーベルネア王国へいらっしゃいませんか?セオドア様も、貴女の能力を高く評価されておりました。それに、このままお一人でいるのは危険かと」


と、提案してくれた。


戸惑いながらも、ビュリスはその申し出を受けることにした。


行く当てがないので。


こうして、ビュリスは故郷を離れ、二つ隣の国、オーベルネア王国へと向かうことになったのだ。


流れに身を任せる。


まさかその国で、生涯を左右する出会いが待っているとは、この時のビュリスはまだ知る由もなかった。


その相手が王族ではなく、一介の騎士だということも。


子供を得るということも。


人生設計なんて、当てにならない。




オーベルネア王国に到着したビュリスは、エルネストの取り計らいで、王都の一角にある静かな屋敷を与えられる。


本気で保護されているらしい。


しばらくはそこで身を休めながら、今後のことを考えるようにと言われた。


新しい生活は、ビュリスにとって驚きの連続。


女性が蔑まれるどころか。


その能力を高く評価する、オーベルネア王国の気風は、前世の記憶を持つビュリスにとってさえ新鮮だった。


女性も男性も実力を高く評価されると、平等に上へ行ける。


エルネストも、何かと気遣ってくれて。


時折、王宮での出来事やこの国の文化について、話してくれた。


そんな穏やかな日々の中で、ビュリスは一人の騎士と出会う。


「よろしくお願いします」


「カルナグメ様、どうも、よろしくお願いします」


彼の名はカルナグメ。


王国の近衛騎士団に所属しており、真面目で実直な人柄が滲み出ている。


振る舞いも生真面目。


訓練場で剣を振るう姿は凛々しく、ビュリスはいつしか彼の姿を目で追うようになっていた。


ついつい、気になってしまう。


ある日、ビュリスは王都の祭りでカルナグメと偶然再会する。


「あ、カルナグメ様」


「ビュリス様、お手を」


賑やかな人混みの中。


はぐれてしまいそうになった、ビュリスの手を、カルナグメが優しく握った。


「ありがとうございます」


手を繋がれたと、乙女心が潤う。


その瞬間、ビュリスの心臓は大きく跳ねた。


「ぶつかってしまいそうですから」


こんなふうに、エスコートされるとは。


元婚約者だって、こんなことはしてはくれなかったと思い出す。


祭りの後、二人は言葉を交わすようになった。


「ビュリス様の叡智は、騎士の間でも話題になってますよ」


カルナグメは、ビュリスの聡明さや物事に動じない強さに惹かれる。


ビュリスは、カルナグメの誠実さや温かさに安らぎを感じていた。


頬が染まる。


お互いを意識し始めた二人の距離が縮まるのに、そう時間はかからなかった。


手紙のやり取りも、たまにやるように。


しかし、カルナグメには誰にも言えない秘密があった。


身分違いの女性との間に生まれた、まだ幼い子供の存在だった。


隠し子である。


騎士としての誇り。


子供と母親を守りたい、という思いから、彼はその事実を誰にも打ち明けられずにいたのだ。


そんな中、ビュリスはカルナグメとの間に子を授かる。


(我が子が)


喜びと同時に、カルナグメの複雑な事情を察したビュリス。


彼を問い詰めることはしなかった。


現代人の知識があるので、男の自己満足であろうと察している。


ただ静かに、お腹の中で育つ小さな命を大切に育もうと心に誓った。


相手が揺れるのならば、必要ないと。


月日は流れ、ビュリスは無事に男の子を出産する。


一応、知らせた。


カルナグメは、生まれたばかりのわが子を抱きしめる。


深い愛情と、申し訳なさがないまぜになった表情を見せた。


「ビュリス。本当に、ありがとう」


カルナグメの言葉に、ビュリスは優しく微笑んだ。


「あなたが無事でいてくれるだけで、それでいいの。それに、あなたがいなくてもいいし」


本音と嘘を織り交ぜる。


ビュリスは一つの決意を固めていた。


カルナグメには、彼の守るべきものがある。


ちなみに、祖国の動向についてだが。


元家族は、王家に責任を取らされて爵位を下げられたとか。


なんでも、国政が回らなくなっていると聞いている。


それはいいとして、今は我が子のこと。


自分にはこの子を守り抜く、という使命がある。


このまま二人でいることは、いつか大きな波紋を呼ぶかもしれない。


なにか大きな秘密を抱えている男。


(真面目かと思っていたけど、見込み違いだった)


数日後、ビュリスは生まれたばかりの息子を抱き、誰にも告げることなく屋敷を後にした。


ここにいては、優柔不断が服を着た騎士が来る。


向かう先は決めていない。


ただ、この子と二人で生きていくことができる場所を探そうと心に決めた。


やがて、それも知れる。


残されたカルナグメは、ビュリスがいなくなったことに気づき、激しく動揺した。


ビュリスからすれば、驚くことなんてなにもないが?となる。


必死に彼女を探したが、その足取りは掴めない。


胸には、深い喪失感と後悔の念が押し寄せた。


今更だなと、言われる気持ち。


ビュリスは、息子を胸に抱きながら、静かに夜の道を歩き続けた。


遠い故郷を振り返ることはなかった。






ビュリスは、オーベルネア王国からほど遠い、小さな港町に身を隠した。


なかなかいい土地に来れたと満足。


賑やかだが、どこか寂れた雰囲気の漂うこの町。


ビュリスは名前を変え、ひっそりと暮らし始めた。


幸い。


前世の知識と、オーベルネア王国で得たわずかな蓄えを元手に、小さな雑貨店を開くことができた。


生まれた息子には、ハイビストと名付けた。


希望に満ちた未来を願って、つけた名前だ。


ハイビストはすくすくと育ち、ビュリスのたった一つの、何よりも大切な宝物となった。


自分の子供。


あの人の子供などではない。


忙しい毎日ではあったが、ビュリスは充実した日々を送っていた。


やり手として稼ぐ。


雑貨店は地元の人々に愛され、少しずつではあるが生活も安定していった。


(毎日、成長を感じ取れる。子供は神秘ねぇ)


ハイビストの無邪気な笑顔が、ビュリスの心の支えだった。


しかし、心の奥底には、拭いきれない寂しさもあった。


仕方ないことだ。


カルナグメのことを思い出さない日はなかった。


一度は愛してしまったので。


彼の温かい眼差し、優しい声。


共に過ごした、短いけれどかけがえのない時間。


それでも、ビュリスは決して後悔していなかった。


それも、今までのことだが。


自分にはハイビストがいる。


この小さな命を守り育てることが、今の彼女の全てだった。


一方、オーベルネア王国では、カルナグメがビュリスを探し続けていた。


誰が何を言おうと、やめない。


日々の公務をこなしながらも、わずかな時間を見つけては王都周辺の町や村を訪ね歩いた。


元恋人からすれば、なにをしているのだと呆れる行為。


ビュリスが最後に残した屋敷には、彼女の物はおろか、息子のものさえ何も残されていなかった。


一切の痕跡を残さない執念。


最初からそこにいなかったかのように。


エルネストもまた、ビュリスの行方を案じていた。


セオドア王子に事情を話し、密かに情報網を駆使してビュリスを探させたが、手がかりは全く掴めなかった。


せっかく、有用な女性をヘッドハンティングできたのに。


がっかりしていた。


数年後、ハイビストは活発な少年に成長。


港町の、悪ガキたちを率いるリーダー格になり。


毎日、海辺や市場を駆け回って遊んでいた。


ビュリスは、そんなハイビストの成長を微笑ましく見守りながら。


ふと、いつかこの平穏な日々が終わるのではないか、という不安を常に抱えていた。


男の真面目さが気がかりで。


ある日、ハイビストが怪我をして帰ってきた。


喧嘩に巻き込まれたらしい。


心配したビュリスが手当てをしていると、ハイビストは寂しそうな表情で言った。


「母さん、父さんはどんな人だったの?」


(え?なに?)


ハイビストにとって、父親は絵本の中の存在でしかなかった。


ビュリスは、カルナグメのことを話そうとしたが、言葉に詰まってしまう。


彼の身分、別れを選んだ理由。


隠し子の存在。


幼いハイビストに、理解できるだろうか。


「ハイビストには、いつかきっと話す時が来る。でもね、ハイビストには私がいる。私がずっと、ハイビストのそばにいるから」


ビュリスはそう言って、ハイビストを強く抱きしめた。


夫なんていなくても、こうして生きていけるのに。


その時、港の方から騒がしい声が聞こえてきた。


背筋が伸びる。


何事かと窓から外を見ると、見慣れない立派な船が港に入港してくるのが見えた。


「あれは!」


その船には、オーベルネア王国の紋章が掲げられていた。


「嘘!来たの?何をしに……」


ビュリスの心臓は、一気に早鐘のように打ち始めた。


まさか、こんな小さな港町まで、彼らが探しに来たのだろうか?


不安と緊張が、ビュリスの全身を駆け巡った。


窓に張り付く。


その船から降りてきたのは、見覚えのある顔だ。


エルネスト。


ああ、と崩れ落ちそうになる。


「母さん!?」


その後ろには……あの、忘れようとしても忘れられない、カルナグメの姿があった。


息子が、崩れ落ちかけている母親に駆け寄る。


ビュリスは息を呑んだ。


まさか、本当に再会する日が来るなんて。


胸の中に、喜び、驚き、言いようのない感情が押し寄せてきた。


怒りもある。


ハイビストを抱きしめたまま、ビュリスは固唾を飲んで、カルナグメの動向を見守った。


守るのだ、この子を。


カルナグメの瞳は、港に降り立った瞬間から、何かを探すようにゆっくりと周囲を見回していた。


「探しているのね、この子をっ」


連れて行かせるものか。


その視線が、ビュリスの雑貨店の方へと向いた時、二人の視線は、遠い距離を超えて絡み合ったのだ。


(行かせない)


カルナグメの瞳が、ビュリスの小さな雑貨店を捉えた瞬間。


彼の足はまるで磁石に引き寄せられるかのように、ゆっくりと。


しかし、確かにその店へと向かい始めた。




カルナグメがビュリスの居場所を突き止めることができたのは、決して偶然ではなかった。


バックアップの存在ありきだ。


ビュリスがオーベルネア王国を去った後、カルナグメは諦めることなく。


あらゆる伝手を頼って、彼女を探し続けていた。


原因を知らない周りなので、協力だってするだろう。


エルネストの協力のもと。


密かに組織された探索チームは、ビュリスがかつて公務で訪れたことのある港町を中心に、地道な聞き込みを続けていたのだ。


ついに、ビュリスの雑貨店に似た店があるという情報を得て。


この小さな港町へと、辿り着いたのだった。


「ビュリス様だ」


エルネストは、カルナグメの背後で静かに見守っている。


ビュリスは、息を詰めてカルナグメを見つめていた。


数年という月日は、彼の顔にわずかながら陰影を刻んでいたけど。


その深く優しい眼差しは、ビュリスの記憶の中のそれと寸分も変わっていなかった。


「やっと」


店先に辿り着いたカルナグメは、一瞬ためらった後、意を決したように店の扉を開けた。


「入ります」


小さな鈴がチリンと音を立て、店内に静かに響く。


「いらっしゃいませ」


ビュリスは、平静を装おうとしたが、声はわずかに震えていた。


怖い、怖いのだ。


ハイビストは、母親の緊張を感じ取ったのか、ビュリスの腕の中で不安そうに身を縮こまらせている。


守らなくてはと気丈に振る舞う。


カルナグメの視線は、まずビュリスに向けられた。


すぐに、その腕の中に抱かれた小さな少年に注がれる。


「母さん……」


その瞬間、彼の瞳が大きく見開かれた。


似ている、と。


ハイビストの顔立ちには、確かにカルナグメ自身の面影があったのだ。


「ビュリス……やはり、君だったんだな」


カルナグメの声は、かすれて、どこか痛みを帯びていた。


どの面を下げて顔を出せたのかと、過去が過ぎる。


(今更、よ)


ビュリスは、ハイビストをしっかりと抱きしめながら、静かに頷いた。


「はい……カルナグメ様。ようこそ」


その呼びかけに、カルナグメはわずかに顔を歪めた。


「もう、様付けはやめてくれ。私の名は、カルナグメだ」


店内の空気は、張り詰めたように静まり返った。


女は皮肉かなと、口元を引き結ぶ。


エルネストは、店の外で控えめに待っている。


「この子は……」


カルナグメは、言葉を選びながら、ハイビストに視線を向けた。


「この子は、私の子なのか?」


ビュリスは、覚悟を決めて頷いた。


「はい。あなたの……私たちの息子です。ですが、私の子なので、あなたの子ではないと思いたいのならお好きにどうぞ」


カルナグメは、その場に立ち尽くしたまま、ハイビストの顔をじっと見つめていた。


吐き捨てられた言葉に、ショックを受けているらしい。


様々な感情が彼の表情を駆け巡り、言葉にならない嗚咽が漏れそうになるのを必死に堪えているようだった。


ハイビストは、見慣れない男の視線に戸惑い、ビュリスの服の裾をぎゅっと握った。


ビュリスは、ハイビストの小さな背中を優しく撫でた。


「ハイビスト、この方はね……」


ビュリスは、少し躊躇した後、意を決して言った。


「この方は、あなたの……お父さんだよ。でも、別に無理して父親と思わなくていいから」


ハイビストは、きょとんとした表情でカルナグメを見上げた。


大きな瞳が、父親の顔を不思議そうに映している。


くりくりとした目で。


カルナグメは、ゆっくりと膝をつき、ハイビストと同じ目線になった。


震える手を伸ばし、ハイビストの小さな頬にそっと触れた。


「ハイビスト……君の名前か?」


(そういえば、つける前に消えたんだった)


「うん」


カルナグメの声は、優しく、温かかった。


「君に会えて、本当に嬉しい」


ハイビストは、父親の優しい眼差しに、警戒心を解いたのか。


少しだけ微笑んだ。


「あの……お父さん?」


その小さな呼びかけに、カルナグメの目から、堪えきれなかった涙が溢れ出す。


彼は、ハイビストをそっと抱きしめた。


「ああ、ハイビスト……私の可愛い息子」


ビュリスの目にも、熱いものがこみ上げてきた。


数年ぶりに再会した愛しい過去の人と、初めて会う息子。


どれだけ、色々あっても息子は父親を欲しがっていたことを、さっき知ったばかり。


複雑な感情が、胸の中で渦巻いていた。


面会くらいは許してあげよう。


エルネストは、店の外からその様子を静かに見守っていた。


そのエルネストから落ち着いたあと聞いたことであるが、元婚約達について。


彼らはやはり、政務や公務ができなくて出来損ないの烙印を押されて適当な爵位を渡された後に、言い合いをする日々になっているとか。


閑話休題。


彼の表情には、安堵と、ほんの少しの寂しさが入り混じっているようだった。


「ビュリス」


カルナグメは、ハイビストを抱きしめたまま、ビュリスを見つめた。


「君を、ハイビストを、迎えに来た。もう二度と、離ればなれになるようなことはしない」


ビュリスの心は大きく揺れた。


カルナグメの言葉は、不安定になりつつある彼女の胸に灯した。


しかし、同時に、彼の立場や、これから起こりうるであろう困難も想像できた。


「カルナグメ様……でも、あなたは……こど」


ビュリスが言いかけた言葉を、カルナグメは優しく遮った。


「私のことは心配しないでくれ。全て、私が解決する。君とハイビストが、安心して暮らせるように、必ず」


(解決って、まだ解決してないの?普通、解決してから来るんじゃないの?ダメだわこの人)


うっかり感動しかけた心を返せ。


スンッと冷えた気持ちに、切り替える。


カルナグメの強い決意を感じ、ビュリスは一応、納得して静かに頷いた。


疑いは残るものの。


(お手並み拝見だからね?)


長い間、一人で抱えてきた不安が、少しだけ和らいだ気がした。


新たな未来へと、歩を出すことになるのだろうか?


(もし、ほんの少しでも私達を邪魔するなら、例えあなたでも)


港町の小さな雑貨店で、再会の日が叶った。


色々問題は山積み。


男としてではなく、責任者としてカルナグメを見定める瞳が光に反射したが、誰も気づくことはない。


それは、幸せなことなのか。


誰にもわからない。


「愛してる、ビュリス」


「ええ。私もです」


息子への愛だけが本物であることが、男にとっては幸いなのかもしれない。

なにしに来たんだこの騎士はと思った方も⭐︎の評価をお願いします。長編連載中

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― 新着の感想 ―
面白かったです。 「白馬の王子」ならぬ「灰色のロバに乗ったクズのオッサン」が、「お姫さま」ならぬ「アホなオバサン」を迎えに来た、と言ったところか。
2025/08/07 04:36 コペルニクスの使徒
屑の男しかいない。 こんな騎士に惹かれた主人公もどうかと。
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