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約束の鈴  作者: 花紅彩葉
第四章 決戦の鈴
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三、 裏切り

「わー、やっぱり広いねー」


 広大な更地を見ながら()(りん)は言った。

 やはり何度見ても感心してしまう。


 結局あれから夜鈴は(かざ)()に連れられて、大蜘蛛(おおぐも)()に来ていた。

 町でわざわざ買ってもらいたい物なんて何も思いつかず、されるがままやって来たのだ。


「だよねー。なんたって大蜘蛛家の誇りだから」


 そう言う風巳は言葉通り誇らしげに満面の笑みを浮かべている。


「欲しい物がないなら、何かしたいことでもいいよ?」

「したいこと?」

「例えば、んー……、育成所の見学とか、食事とか、あとは……父上と話す、とか」


(……海琉馬(かるま)さまと?)


 確かに御三家の頭首と良好な関係をもつことは大切だ。個人的に信頼を得ていれば、後々役にも立つだろう。だがお祝いという形でわざわざすることではない。


 夜鈴は怪訝に思い、(わず)かに眉をひそめる。


 そんな夜鈴に対し風巳が何か言うかと思ったが、それよりも早く、その人物は現れた。

 狙ったような、嫌なタイミングだった。


「やあ、夜鈴。元気そうだね」

「海琉馬さま……」


 彼は相変わらず穏やかに微笑みながら、従者を連れて近づいてくる。

 そのせいでまたも安心しそうになるのを抑えて、夜鈴は何とか自分の言葉を紡いだ。


「お会いできて光栄です、海琉馬さま。しかし生憎(あいにく)これから用事がありまして、そろそろお(いとま)させていただこうかと思っておりましたところでして。またの機会にじっくりお話できたらと思います」


 やっぱり、海琉馬や風巳が、大蜘蛛家が、悪い人だとはどうしても思えない。

 それでも、今すぐにここから離れないといけないような気がした。

 直感が、殺し屋として磨いてきた感覚が、そう言っている。


「まあまあそう言わず、来たばかりじゃないか。もう少しだけゆっくりしてお行き」


 海琉馬は穏やかな表情を保ったまま言う。


「お言葉は大変嬉しいのですが、どうしても行かなくてはいけない用事でして」

「……そんなに大切な用事とは、一体どんな用事なのかい?」

「それは……」


 流石に樹宮(きみや)()からお迎えが来ますなんて言えるわけがない。良さそうな言い訳が思いつかず、夜鈴は口ごもってしまう。


「ああ、殺し屋には守秘義務があるからね。好敵手の我々には話せないか。ごめんごめん」


 言いながら、海琉馬はわざとらしく謝る。

 夜鈴は思わずぎゅっと唇をかんだ。


「そうです。ですから詳しいことは言えませんが、急がなくてはいけませんので、これで失礼します」


 無暗に言い返しても時間の無駄だ。それに機会を逃すわけにはいかない。

 実際、そろそろ出発しないと昼までに龍神(たつがみ)()に戻れなくなってしまうのだ。

 夜鈴はそのまま頭を下げて立ち去ろうとした。


 嫌な予感が、的中してしまう前に――。


「そうだね、樹宮家のお方を待たせるわけにはいかない」


 海琉馬の声が、一気に低くなった気がした。


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