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約束の鈴  作者: 花紅彩葉
第二章 桜柄の鈴
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六、 混乱

 一方、龍神(たつがみ)()

 裏山に行ったきり帰ってこない()(りん)仁鑑(じんかん)を心配して、盛雲(せいうん)は迎えをやらせていた。何かあったのではないかという心配が頭から離れなくて、自室に戻ることもできないまま応接室をうろうろしている。


 夜鈴に何かあったら――。


 そう思うと、心配せずにはいられなかった。


 夜鈴を娘にし、殺し屋として育てたのは自分だ、という責任は常に感じていた。

 だから、龍神家に来たことによって何か問題が起こればその責任は盛雲が取らなければならないし、取る覚悟もある。だがそれにより生じる夜鈴への負担や被害は何をどうしてもなかったことはできないのだと、ずっと不安に思っていた。


 だから万一の事態を未然に防ぐために、仁鑑を世話係として常に付けていたのだ。だがその仁鑑も、絶対に対処できるとは限らない。


 次々に心配事が浮かんで、頭がいっぱいになってきた頃、血相を変えた部下が応接室に飛び込んできた。


「仁鑑さまが――!!」


 その報告を聞いて、盛雲はみるみる血の気が引いていった。


 ――仁鑑が大量の血を流して倒れていた。


 恐れていたことが、ついに起きてしまった。


 報告に来た部下の後に付いて駆け足で処置室に向かう。その間、盛雲は動揺を隠せなかった。


 仁鑑は助かるだろうか。夜鈴はどうなったのか。部下の話によると、依頼に来ていた(やから)を含め、どこにも見当たらなかったそうだが……。

 無事、だろうか。

 それもこれも全部、自分が二人を裏山に行かせたせいで……。


 だがこうなった以上、手を打たなければいけない。頭首である盛雲が、動揺していてはいけないのだ。


 仁鑑から話を聞き、冷静に判断して指示を出す。

 的確に、最善の指示を。


 そう自分に言い聞かせたところで、処置室の扉が見えた。


「仁鑑! 大丈夫か!」


 盛雲は珍しく大きな声を出しながら、勢いよく戸を開けて部屋に入った。

 大量出血している以上大丈夫ではないが、死なないか、くらいのニュアンスで言った。


「せ、盛雲さま……。夜鈴、さまを……」

「夜鈴はどこに?」

「気を、失って、……連れ去られました」


 やはりそうだ。仁鑑を無理に喋らすのは良くないが、手短に状況は教えてもらいたい。


「どこへ行ったか、わかるか」

「山のほうに、入って、行きました……。場所、は、わかりません」

「ありがとう。あとは俺がどうにかする。お前は安静にしていろ」


 盛雲はそう言って、すぐに部屋を出た。


 彼がいたら、仁鑑は無理にでも気を遣ってしまう。少しでもわかっていることを話そうとしたり、自分は大丈夫だというような振る舞いをしたりする。

 それは重傷者にとってかなり危険で、負担になると判断した。


 頭首室まで移動する時間も惜しく、盛雲は処置室の前の廊下で状況を整理しながら対応を考える。


 奴らの居場所さえわかれば、乗り込んでやればいい。殺しはしなくても、捕らえて、夜鈴を助けることはできる。仁鑑に大怪我を負わせ、夜鈴を気絶させたくらいだからかなり強いのだろうが、こちらがその気になれば負けることはまずない。


 しかし問題は、どこへ行ったかがわからないことだ。山に入っていったとしても、目的地がその方角だとは限らない。山に入った後は、どこへでも抜けられるのだ。

 結局、奴らについてわかることは何もなかった。


「父上!」


 考え込んでいると、蹄の焦ったような声が聞こえた。


「何の騒ぎですか?」

「面倒な依頼人が来ていたんだが、奴らに仁鑑が斬られた。夜鈴も連れ去られて……」


 盛雲はできるだけ落ち着いた声で、簡潔に状況を説明した。それを聞いた(ひづめ)は、みるみる顔面蒼白になる。


「仁鑑は無事なんですか!?」

「今、処置しているところだ。おそらく命に別状はない」

「……あいつ、……よ、夜鈴は?」


 蹄が夜鈴の心配をするのは意外だった。しかも、初めて名前を言った。そのことに、盛雲は驚き、場違いだとは思いながら感心した。


「どこに連れて行かれたかわからない。無事かどうかも」


 その言葉に、蹄はさらに焦りを募らせる。


「あ、あの……。仁鑑が斬られたのも、夜鈴が(さら)われたのも、……俺の、せいです」

「どういうことだ?」


 蹄がそんなことを言う意味がわからなかった。


「俺、あいつが仁鑑に呼ばれた時、一緒にいたんです。話を聞いて、絶対に危険だと、行ってはいけないと、思いました。でも……」


 蹄らしくない、弱弱しい声で話す。

 心から責任を感じているようだ。


「認めたくないけど、あいつ、いつの間にか俺より強くなっていて、……なのに自慢もしてこないし、俺の方が強いとか言うし。それが、悔しくて、ちょっとくらい痛い目見てほしいって思ってしまって……。だから、会いに行くように言いました。無理やり、行かせたんです。だから、こんなことになったのは、俺の――」

「お前のせいじゃない」


 盛雲は力強い声で蹄の言葉を遮った。その言葉に、蹄は俯きかけていた顔を上げる。


「おそらくいつもみたいに、思ってもないような酷いことを言ったんだろう。確かにそれは良くない。だが、こうなったのはお前の責任ではない」


 盛雲も初めて見た蹄の落ち込んだ様子に、ここは頭首であり父親である自分がしっかりしないといけない、と心から思った。夜鈴を助けて、蹄を普段の状態に戻さなければ、と。


「二人を行かせる最終決定をしたのは俺だ。責任は俺にある。それに二人をあんな目に遭わせたのは奴らだ。蹄は悪くない。だから自分を責めるな」


 盛雲の声は、とても頼もしかった。優しく、でも力強く、心に染み入ってくる。


「しかし……!」

「今俺たちがすべきなのは、奴らを見つけ出して夜鈴を助けることだ。それが、責任を取ることにも繋がるんじゃないか?」


 責任を取る、という言葉に、蹄は納得したようだ。

 盛雲も、彼を(さと)しているうちに自然と冷静さを取り戻している。


「わかりました。ですが、どうやって居場所を突き止めるんですか?」


 それが問題だ。

 場所さえわかればあとはどうにでもなるのだから。


「そうだな……」


 夜鈴を助けるためには、急がなくてはならない。どうしようもなさそうな問題に、二人して考え込む。

 ――その時。


「盛雲さま! 奴らの居場所がわかりました」

「――!! どうやってわかった!?」

「それが――」


 拍子抜けするような報告が、届いた。


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