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八重咲くごとく 八代にをいませ

作者: 八十島そら










  八重(やえ)()くごとく 八代(やつよ)にをいませ








      



 そばにいてくれる、あなたへ


 僕の気持ちを、この花に託します。


 この花に込められた言葉を、あなたはどのように読み解くでしょうか。僕にとっては、一世一代の大勝負なのです。色鮮やかな花と蝶だけでなく、地に伸びる根に思いを馳せ、茎を伝う蝸牛を()でるあなたのことですから、良き解釈をしてくださることでしょう。


 あなたは、うわべだけで何もかも決めるような人ではありません。去年の、にわか雨が降った日、僕を選んでくださりました。あなたは清く、麗しく、賢い女性です。そんなあなたと一緒になりたいと願う相手が、数多(あまた)いましたね。その中の一人である私ときましたら、さして家柄が良いわけでもなく、今時の容姿でもなく、さらに親や友人から頭でっかちだと言われ続けておりました。


 五月二十四日、土曜日の逢引きを覚えていらっしゃいますか。庭園に、この花が咲いておりましたね。あなたは、赤と青が仲良く調和した紫よりも、青に寄った紫が素敵だと仰いました。色の(おもむき)について話したかったとは思いもよらず、僕は、なぜこの花が暖かい色と寒い色どちらにも咲けるのかを説明してしまいました。紙の上においては雄弁ですが、声にしますと、どうもぎこちないのです。結果、一時間もあなたを立ったままにさせてしまいました。お茶でもいかがですか、なんて申し上げれば、華やかな一日になったものを。


 鈍い僕ですが、あなたへの想いは枯れません。次にお会いする時に、お返事をください。









 あのお方に、お花をいただきました。庭園にてお話ししたことを、忘れないでいらっしゃったのですね。土が酸性でしたら青に、アルカリ性でしたらピンクになるのですよね。お詳しいですわ。植物図鑑が無くても、そばで教えてくださいますの。美術館にお出かけした日も、耳元までいらして、丁寧に解説してくださりましたわ。あのお方は、私が気になったことを、なおざりにしませんのよ。


 私はよく、同性の方々に「移り気な狐」だと悪口を言われます。私の周りに殿方がいることを許せないのでしょう。また「氷の女王」とも呼ばれております。表情が豊かではなく、冷たい印象を受けるのだそうです。私も例外ではありませんが、女は何にでも妬みやすい生き物なのですよ。どれほど親しい間柄であっても。


 市民図書館にて、花言葉を調べました。お訊ねしてばかりでは、いつまでたっても賢くなれませんもの。驚きましたわ、「産業」の棚においてありますのね。植物について、ですから4門「自然科学」の棚だと思い込んでおりましたわ。植物学ではなく、園芸ですのね。


 あのお花は、まるで私のようですね。私の好きな色は、どうしても冷たい、後ろ向きな印象を与えてしまいます。多くの方々は、悪い意味を持つ花なのだ、でおしまいです。


 この一年、あのお方のそばにいられて、良かったです。隠された意味にたどり着き、私は目頭が熱くなりましたの。


  辛抱強い愛、知的な人、家族。


 これから毎年、庭園に連れて行ってくださいませ。あのお花を、あなたを、より詳しく知りたいのです。家族が増えてにぎやかなお散歩になっても、楽しみは尽きませんわ。


 私の解釈が合っていますように。


 素敵な贈り物と約束をくださったあなたへ

 

 

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