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眠りと目覚め

「時間すら止める封印。そんなもの聞いたこともありません。仮にあったとしても代償には何が必要なのでしょうか?」

「…………」

「不老不死の魔術を完成させるには長い時間が必要とおっしゃいましたね。どれくらいの年月が必要ですか?人間の一生で完成するのでしょうか?」

「…………」

「私の肉体は既に限界で、こんな状態から助かるなど本来は不可能なのです。恐らく多大な犠牲、膨大な時間が必要になるでしょう」

「…………」


 男は一切口を開かずにアンの問答を聞いていた。

 

 アンが抱いている懸念は概ね事実であり、男はアンを救う為に何もかもを捨てるつもりでいた。

 

 時間魔術に必要な代償は同じく時間。運命の女神に管理された人間の一生に介入し、本来生きられただけの時間、あったはずの未来を代償に対象の時間を止める魔術であった。

 そして不老不死の魔術に関しては、100年もの間呪いを調べて分かったことは”この呪いが未完成の魔術であった”ということだけ。魔術を少し改良しようとするだけでその何倍もかかるだろう。


 今それだけの時間を作り出す事は不可能だ。

 

 男はアンを救う為に街の人間を、世界中の人間を皆殺しにしてでも時間を手に入れようとしていた。


「…………アンは凄いね」


 あれだけの会話と情報で真意の一部に気付き、そして自分を犠牲にしてでもそれを止めようとするアンに対して、男は誇らしさにも似た感情が胸に湧いていた。

 そしてどこか他人事様にアンの頭を撫でる。


「でも大丈夫だよアン。俺は死なないし、アンも絶対死なせない。寝ててはもらうけどね」


 時間魔術の本質は封印ではない。運命を捻じ曲げ、世界の時間に歪みを生じさせることであり、歪みを直そうとする修復力を利用して対象の時を止めているのだ。

 よって封印として眠る必要もなく肉体の時だけ止めて活動する事も出来る。対象を自分にすれば、他人の時間を奪いその分長く生きられるのだ。


「それじゃ名残惜しいけどアンには眠ってもらうかな」


 男はアンを抱き上げて自分がいたベッドに寝かせる。

 アンは抵抗しようとしたが、身体は時が止まったかの様に全く動かない。


「ご主人様……おやめください」

「大丈夫だよアン。次に目が覚めた時は二人とも不老不死でハッピーエンドだ」

「ですが……」

「安心して。アンは寝てるだけでいいからね」

「そんな……ご主人様」

「アンを助けたら昔みたいにまた旅でもしたいな。今度は二人だけだけど」

「ご主人様……」

「100年も経ってるから、すっごく変わってるんだろうな。今から楽しみだ」

「ご主人様」

「だからアン。俺に助けられてくれ」

「ご主人様…………ご主人様!」

「命令だ。俺に従え」

「………………はい」

 

 その言葉を最後にアンの意識が途切れた。








 

 後の人類史において、秩序と文明が崩壊し、混沌に包まれた時代が存在する。

 一体の魔王によって引き起こされた、その暗黒時代は約1000年もの間続き、人類を絶望の底へと叩き落とした。

 

 世界の平和と引き換えに死去したはずだった勇者の姿をしたその魔王は、初めに小さな街に降り立つと幼い子供や若い女など非力な者からその命を奪って行った。

 魔の王と呼ぶに相応しいその様にかつて英雄だった面影はなく直ぐに討伐隊が編成されるが返り討ちに合う。人数を増やして、装備を良くして、あらゆる手段を用いた討伐任務は遂に完遂することはなかった。

 時折まるで誰かと会話するように何もない空間に話しかけ、既に正気を失っているようにも見えた魔王は、それでも圧倒的な武力を誇り、ある日突然姿を消すその時まで人類を蹂躙し続けたのだ。


 そうして一つの小国が滅びた時、この世界の各国の長たちは選択を迫られていた。魔王に対する隷属か敵対か、多くの国が表面上は手を取り合い魔王討伐に声を上げたが、一向に上がらない成果は国家間の思惑がすれ違うには十分だった。

 

 崩壊する団結。尚続く殺戮。人類は未来への希望を失っていった。


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