67 散々傷つけてきたくせに
一刻も早く、彼女に会いたい。
この男性が何者なのか、何故ティリアを連れ去ったのかは後でいい。
今は早くティリアを救出しなければ。
「国王直属蒼穹騎士団所属、アルヴィス・リースベルクと申します。今は行方不明の女性の捜索中です」
アルヴィスが名乗ると、二人の顔が青ざめる。
騎士団の名に反応したのか、それともリースベルク公爵家の方か。
自身の肩書もこういう時に役に立つのだと、アルヴィスは実感していた。
男性の方は一瞬狼狽えるような顔をしたが、すぐに落ち着きを取り戻し毅然とした表情を作った。
「……ティリアは私の娘だ。勝手に家を出た娘を保護して何が悪い」
「娘……?」
ということは、今目の前にいるのはティリアの父親と義母なのだろう。
アルヴィスはティリアの話してくれた内容を反芻する。
ティリアはリッツェン伯爵家で長年虐げられ、やっとの思いで王都へ逃げてきたところでアルヴィスと出会った。
……それなのに、元の家族がティリアを連れ戻そうというのだろうか。
(散々ティリアを傷つけてきたくせに、今更何を……!)
ティリアの肌に残る傷跡が、過去のことを話す彼女の悲壮な表情が忘れられない。
家族だろうが関係ない。
アルヴィスにはティリアを彼らのもとに帰す気など毛頭なかった。
「…………保護、か。しらじらしいな」
今まで自分たちがティリアをどんなふうに扱っていたのか、アルヴィスが知らないとでも思っているのだろうか。
低くつぶやいたアルヴィスに、女性――おそらくは伯爵夫人がびくりと身をすくませる。
そんな二人の罪を暴くように、アルヴィスは告げる。
「あなたたちのしていることは保護ではない、虐待だ」
ティリアを痛めつけ、彼女の身体を、心を、人としての尊厳まで踏みにじっていたのはどこの誰だ。
そんな怒りと軽蔑を込めて、アルヴィスはティリアの両親を睨みつけた。
二人はアルヴィスの気迫に恐れをなしたかのように、表情をこわばらせた。
だがすぐに、伯爵の方が食って掛かってくる。
「あれは私の娘だ! どう扱おうが貴様には関係ない!! さっさと出ていけ、兵を呼ぶぞ!」
「どうぞご自由に。この家の中を見られて困るのはあなたがたの方では?」
「くっ……若造が生意気な!」
まるで彼の怒りが発現したかのように、リッツェン伯爵の指先からは電撃がほとばしる。
(明確な敵意あり……だな)
これで反撃の正当性はできた。
アルヴィスは身をかがめてこちらを狙ってきた雷撃をかわすと、素早く伯爵へと距離を詰める。
そして追撃の暇を与えず、その体を投げ飛ばした。
「ぐっ!?」
「きゃああぁぁ!」
伯爵はうめき声をあげて動かなくなり、その様子を見た伯爵夫人は夫を心配することもなく即座に逃げ出した。
できればティリアの居場所を聞き出したかったが、追いかけるよりもこの家の中を探した方がいいだろう。
そう考え、アルヴィスが先へ進もうとしたとき――。
「うるさいわね。何なのよ」
更に奥から声がし、若い女性が顔をのぞかせた。
「君は……」
アルヴィスはその顔に見覚えがあった。




