66 人を探しているだけ
「ここか……」
「きゅいきゅい」と盛んに鳴きながら目の前の邸宅に突入しようとする小さなユニコーンを抱き上げ、
アルヴィスはその建物を見上げた。
たどり着いたのは貴族外の一角――少々古ぼけた邸宅だ。
「おそらくは地方貴族用の貸家の一つですね」
リースベルク邸から飛び出すアルヴィスを見かねてついてきた配下の一人がそう口にする。
リースベルク公爵家のような大貴族は、領地の館とは別に王都にも大邸宅を構えている。
だがそこまで資金に余裕のない小貴族は社交シーズンなど王都に滞在する際に、こういった貸家を借りるのが一般的だと聞いたことがある。
「ここに、ティリアがいるかもしれない……」
確証など何もない。
ただ、腕の中の小さなユニコーンの感でここまでやって来た。
「アルヴィス様、すぐに各所に働きかけこの邸宅を借りている者の情報を洗い――」
「いや、それでは遅い」
ブラックサンダーは相変わらず「きゅいきゅい」と切なげな鳴き声を上げ、彼女の父親でアルヴィスの相棒でもあるユニコーンの成獣――トリスタンは、険しい目で目の前の建物を見つめている。
……彼らは確実に何かを感じ取っている。
アルヴィスにはそれが、ティリアの危機に関することだとしか思えなかった。
もう少し時間をかければ、合法的に捜査をかけることも可能だろう。
だが、その間にティリアがひどく傷つけられるようなことがあれば――。
(一生、後悔してもしきれない)
だからアルヴィスは、リースベルク家の後継者としてはありえない行動を取った。
「済まない、責任はすべて僕が取る」
「アルヴィス様!?」
「トリスタン……やれ」
そう命ずるや否や、たくましい体躯のユニコーンは邸宅の扉へと突進した。
もしここにティリアが囚われているのなら、穏便に話をしようとしても無駄だろう。
むしろ、逃げる隙を与えかねない。
……だったら、正面突破あるのみだ。
ユニコーンの体当たりを受け、ガタガタと扉が大きく揺れる。
とどめとばかりに後ろ足で蹴りを入れれば、あっさり扉は崩壊した。
「ああぁぁぁ!? これで何もなかったら大問題ですよ!?」
「だから僕が責任を取ると言っているだろう」
慌てふためく配下を置いて、アルヴィスは邸宅の中へと足を踏み入れた。
「クルルゥ!」
一緒についてきたカーバンクルのクルルが、アルヴィスの肩の上で歓声を上げた。
「クルル、ティリアの居場所を探ってくれ」
「クルァ」
そう命じるとクルルはすっと空気に溶けるように自身の姿を透明に変え、アルヴィスの肩から跳んでいく。
アルヴィス自身もティリアを探そうと、足を進める。
だが、さすがにこの騒ぎを聞きつけたのか奥からせわしない足音が聞こえてきた。
「何事だ!?」
姿を見せたのは、壮年の男性だ。
衣服や装飾品から類推するに、貴族や裕福な平民だろう。
「……何者だ、貴様は! 強盗か!?」
いきなりドアをぶち破って現れた乱入者に、男性は明らかに狼狽している。
「いったい何を騒いで……っ!」
伯爵夫人と思われる女性も姿を見せ、アルヴィスの姿を見た途端に驚いたように目を見開く。
……まるで、ここに見られてはならない何かがあるとでもいうように。
「いえ、人を探しているだけです」
アルヴィスは背後にトリスタンを従え、男性へと近づく。
男性は怯えるように二、三歩後ずさったが、アルヴィスはあっという間に距離を詰めた。
「ティリアという名の女性が、ここにいないでしょうか」
冷静を装ったつもりだが、声色から抑えきれない怒りの念は漏れていたのだろう。
そう問いかけると、二人は取り繕うこともできずにあからさまに表情を変えた。
「なぜそれを……」とでも言いたげな、驚愕の表情に。
それだけで、アルヴィスは悟る。
(間違いない。ティリアはここにいる)




