57 もっとお役に立ちたいのに
アルヴィスがこっそりルーカスに尋ねたところ、人の持つ潜在魔力は自然界に存在する魔力と触れあることによって活性化し、やがて自由にコントロールが効くようになるという。
だから、今のティリアにできるのは今まで以上に神獣たちに寄り添うことだけ。
神獣たちと触れ合うのは幸せなのだが、本当にこのままで大丈夫だろうか……と、時折不安に襲われる。
(もっと、アルヴィス様のお役に立ちたい……)
アルヴィスは焦ることはないと言ってくれるけど、それでもティリアはもどかしかった。
いつまでもティリアが光属性の力を使いこなせなかったら、アルヴィスに迷惑をかけてしまう。
彼はきっとティリアのことを庇ってくれる。
だが周囲は、アルヴィスとティリアの婚約を撤回させようとするかもしれない。
「はぁ……」
思わず大きなため息が漏れてしまう。
すると、おとなしくブラッシングを受けていたブラックサンダーがよじよじとティリアの体を登って来た。
「ふふ、くすぐったい」
肩の辺りに落ち着いた小さなユニコーンに頬を舐められ、ティリアはくすりと笑う。
光属性の魔力には、癒しや浄化の力が宿っているのだという。
だがきっと、こうやって触れ合うたびに癒されるのは、この小さなユニコーンの天性の愛嬌ゆえだろう。
(……そうね。焦ってばかりではどうにもならないわ)
ティリアもブラックサンダーを見習い、もっとおおらかに構えていた方がいいのかもしれない。
でも、いつかは――。
(この傷跡も、消える日が来るのかな……)
いまだティリアの体に残る、伯爵家での折檻の痕。
アルヴィスの隣に立ちたいという思いが強くなるほど、自分にはそんな資格がないのでは……と後ろめたさを感じてしまう。
せめて体に残る傷跡が綺麗に消えたのなら……と、ティリアは願わずにはいられなかった。
(アルヴィス様に、ふさわしい存在になりたい)
そんな想いを込めて、ティリアはじゃれついてきた小さなユニコーンをそっと抱きしめた。
そんな時、エントランスから来客を告げるベルが鳴った音が聞こえ、ティリアは慌てて立ち上がる。
(誰だろう。ラウラさん……?)
今はアルヴィスも不在で、誰かがここを訪れるという話も聞いていない。
少しドキドキしながら入り口の扉を開けると、そこにいたのはティリアやラウラと同じお仕着せを身に纏う使用人の女性だった。
「失礼いたします。こちらの別館に設置予定の調度品をお持ちいたしました」
「調度品、ですか……?」
まったくそんな話は聞いていなかったティリアは、思わず首をかしげてしまった。
「えぇ、ラウラが破損した分の補填と伺っておりますが」
(あの時の……!)
おそらくはティリアがアルヴィスに無理やり迫られていると勘違いしたラウラが、壺を投げつけた件だろう。
きっとアルヴィスかラウラが手配してくれていたのだ。
「ありがとうございます、こちらへどうぞ」
ティリアは使用人を中へ通し、とりあえず以前と同じ場所へ設置してもらう。
以前のものとは少々趣が異なるが、相も変わらず高価そうな壺だ。
「ありがとうございます、助かりました」
「……よろしければ、他の場所を拝見しても? こちらの建物を訪れるのは久しぶりですので」
「は、はい!」
一瞬どきりとしたが、ここで断る理由もない。
(別に、見られて困るものがあるわけでもないし……)
神獣が怖がるかもしれないから温室の方は避けてほしいとだけ告げ、ティリアは別館の内部を案内する。
時々、彼女はティリアの仕事ぶりをチェックするかのように細部を確認することがあった。
何か駄目だしされるのでは……とドキドキしたが、特に「こんなところに埃が……」みたいなことも言われることなく、無事に確認作業は済んだようだ。
(何事もなくてよかったけど、何だったんだろう……?)
彼女の態度からすると何か意味がありそうだが、結局は何も言われなかった。
なんとなく釈然としない思いを抱えながら、ティリアはいつもの仕事へと戻る。
「きゅいぃ……」
見慣れない人間が訪れた直後だからだろうか、ブラックサンダーはまるで何かを警戒するかのようにティリアの足元から離れようとはしなかった。




