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38 婚約者の条件

「ねぇ聞いた? 若様が婚約するかもしれないって話」


 迎えた翌日。アルヴィスの婚約話は、既に屋敷中の者が知るところとなっていた。

 いつものように食材を持ってきてくれたラウラに話を振られ、ティリアはそっと頷く。


「はい。未来の公爵夫人になられるかもしれない御方だと……」


 アルヴィスはあの後も、その話題を避けるようにティリアに深く事情を説明しようとはしなかった。

 だが家令の態度を見る限り、婚約はほぼ決まったようなものだろう。


「未来の公爵夫人か……。そううまくいくかなぁ……」


 だがラウラは、どこか懐疑的な顔をしていた。


「……何か、心配事でもあるのですか?」

「うーん、心配事っていうか……こうやって若様が婚約候補のご令嬢がお会いするの、初めてじゃないんだよね。というか、もはや何回目かって感じで」

「ぇ……」


 驚くティリアに、ラウラは呆れたように告げる。


「国内でも指折りの名家の跡取りで、なんかすごい騎士団のメンバーで、内面はともかく顔も良い。そりゃあ、若様狙いのお嬢様方も多いわけよ。内面の残念さには目を瞑ってね」

「なるほど……」


 内面が残念かどうかは置いておいて、前に高級ブティック『ヴィヴィアンテ』に行った時も、店長はアルヴィスは王都の女性に人気があるというようなことを言っていた。

 ティリアが知らないだけで、引く手数多なのは確かだろう。


「若様って女性より神獣神獣!って感じだけど、一応公爵家の跡継ぎとしての自覚はあるみたいだし……今までだって、こういうお見合いの機会は何度もあったの。ただ……」

「ただ……?」

「理想が高いというか、なんというか……結婚相手に求める条件がおかしいんだよね」


 ラウラが発した言葉に、ティリアはごくりと唾を飲んだ。

 今まで幾人ものご令嬢がアルヴィスとの縁談に望み、散っていったのだという。

 果たして、どんな過酷な条件が設定されているというのだろう。


「そ、その条件とは……?」


 おそるおそる問いかけると、ラウラはにやりと笑って告げた。


「若様的にはたった一つ。『神獣を大切にし、神獣からも認められること』――でも、この条件をクリアできた人は今まで一人もいなかったのよ」


 ラウラは呆れたように笑って、これまでのいきさつを教えてくれる。


「まず若様って、神獣に関する話になるとめちゃくちゃ熱が入って話が長くなるじゃない。あれに耐えられなくて何割かの女性は脱落する。普通のご令嬢は、そこまで神獣に興味はないからね」

「そうなのですね……」


 確かにアルヴィスの話は長く、専門的な部分が多すぎてわかりにくいといえるだろう。

 だがずっと狭い屋敷の中で何の楽しみもなく生きてきたティリアにとっては、彼の話は新鮮で面白く感じられるのだ。


「それでも、相手は生まれながらの貴族令嬢。多くの方は、若様の話がどれだけ長くて面倒くさくても笑顔で耐えてみせるの。なんていっても、結婚さえしちゃえば公爵夫人になれるからね。でも、若様は次に相手の女性を神獣に引き合わせようとする。すると……どうなるかわかる?」


 ティリアは思考を巡らせ、その光景を想像してみる。

 かつて、ティリアがそうしてもらったように……美しく着飾った女性の手を取って、アルヴィスはあの別館へと連れて行くのだ。

 扉を開けると……可愛らしい神獣たちが出迎えてくれる。

 クルルやブラックサンダーの可愛さを見れば、どんな女性だって笑顔になるだろう。

 二人は穏やかに微笑み合い、これからの明るい日々を予感せずにはいられなかった――。


「……というような感じになるのでは」


 大真面目にそう答えると、なぜかラウラは今日一番のあきれ顔を見せてくれた。


「はぁ……甘い、甘すぎる。そんな風にうまくいかないのよ。あそこの神獣たちって、知らない相手が来るとまず警戒して追い出そうとするの。それでも神獣に認められるようと努力するような御方を、若様は求めているのかもしれないけど……今までの女性は、その時点で全員逃げ出してるのよ」

「そんなことが……」

「それでも縁談相手が途切れないのはいいのか悪いのか……。とにかく、若様の理想の相手が現れるよりも若様が譲歩する方が早いと思うんだけど、なかなかそうもいかないのよね……。若様、ああ見えて頑固だから」


 アルヴィスの神獣への思い入れの強さは、ティリアもよく知っている。

 だからこそ、彼は譲れないのだろう。

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