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5話-①
──それが合図だった。
にげる
北げる。
「北」という字は人の姿から生まれたもので、右向きの人と左向きの人が背中合わせなっている姿を表現している。背を向け離れていくイメージが、「逃げる」という意味を持つ......本来は。
けれど、琴巴様はいつだって言葉遊びが好きなお方。
「北」が表す、右向きの人と左向きの人が背中合わせなっている姿から────『まるで東西を指した方位人間だなぁ』────と琴巴様は言った。
それ以来、私達の間では東西限定で使う方法確認の合言葉となった(ブラフ目的もある)。
だから、さっきの琴巴様の言葉『...にげるか?...』は、『...どっち(西か東)だ?...』と変換できる。
そして、住宅街を抜けたこの大通りは、東西に延びている。
答えは出揃っていた。
私は、抜け落ちた左目を目一杯開けて、犬の顔を象る巨大な手の獣を見る。
獣と琴巴様との距離は目測二百メートル西...。
「琴巴様、西に約二百メートル先です!」
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5話は分割して、投稿しますm(_ _)m