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私的な夜  作者: 那須茄子
蠢く蝕死
4/9

3話

 再び歩を進める。


 今日もとても静かな夜だ。あまりに静かだから、夜の息遣いが聞こえてくる。

 息を殺した呼吸音(かぜ)が髪を撫でる。


 それは芯から冷えるような冷たさで、私は少しばかり不安だった。

 独りぼっちになったみたいな錯覚がする。

 全く、質の悪い嫌がらせだと思う。


 ジュジューッとさっき買ったばかりの缶ジュースを啜っては、軽くため息をつく。


 何もないことは好ましいことだ。私だって、好き好んで物騒なことが起きるのを待っている訳じゃない。

 でも、こうも夜をただ歩き回っているだけなんて。


「この街の連中は皆、律儀だよね。夜になると、一人も外から出たくなる。これって不思議というか妙だよな」

「そんなことは有りませんよ。だって、琴巴様。この街の人たちは、夜が怖いことを昔から代々教えられてきているのですから。この土地の習わしとして。

これも一種の暗示なのでしょう」


 ..そう言われてしまえば、こちらも納得するしかない。ここ最近で暗示そのものが、一種の神秘的魔法であると提唱されている以上。 

 私も十分そうであると思っている。


「まぁ、それが先祖代々からの教えとなれば、尚更ね」


 要するに、強力な魔法になりやすい。


「はぁ。これじゃ、私がここに来た意味無いんじゃない? 『概念示教』のお偉いさん方は、何考えてんだか」

「うーん。私に聞かれても分かりません」

「でしょうね。当分は私たちの屋敷掃除が中心みたいだなぁ..」

「あ、そうでした。屋敷の事についてなんですが、、、、」



────ドクン。ドクン。ドクンドクンドクン


 生命の鼓動が怯え震える。空気が拒むように歪乱(ゆがみだ)す。


 ()()()()()()()()()

 

 二人して息を呑む。 

 四感(私の場合、目が見えない為)全体で感じ入る。特に嗅覚が強く訴える。


 やけに獣臭い。獲物に飢えたこの獣臭さは、こんな静かな夜にはぴったりの狂気にそまる。

 すでに、獣の捕食範囲に入っている。


「柊月..」

「..琴巴様私たち─────パキィっ」


 パキィっパキィっ────。


 嫌な粉砕音が反響する。

 あぁ嫌でも想像してしまう..


 パキィっパキィっ....グチャグチャ..ヂュルル....ブチャっ.......


 これが獣の食事。作法も何もない、ただ衝動に駆られ貪る野生の本能。

 食べるという行為にしか生を得られない、意味を見出だせない、愚か者なのか。


「「「「ぁぁ、うまいうまい。ひさしい、ジンニクだぁ」」」」


 獣は歓びの声をあげる。

 聞くに耐えない、声の塊は笑みすら溢す。


 なんと、卑しいことだろう。


 しもべに、打ってつけではないか。


「そっか。ちょうど、番犬が欲しがったところだったんだよ..」


 


 


 



 


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