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私的な夜  作者: 那須茄子
蠢く蝕死
3/9

2話

 夜の散歩──いつ誰がそう名付けたのかは、知らないが。

 とても洒落た言葉遊びだと思う。私は気に入っていた。


 夜の散歩とはいっても、ただその通り、夜を散策するわけではない。言ったように、それは言葉遊び。

 

 夜の均衡を等しく天秤のようにつり合わせるべく、夜の魔法使い(わたしたち)は、夜を見張る。

 それが、夜の散歩という言葉の意味するところだ。

 

 最も夜と表現するよりは、夜の闇で満たされた『街』だろうか。

 夜がもたらす神秘的概念で、一変も二変も世界は変わり出す。例を挙げるなら、それこそ魔法や魔法使い、幽霊やら妖怪、怪奇現象等まで。それらあらゆる、人の頭を持ってしても説明し難いものを。 


 一括りに『夜の狂気』と呼ぶ。私個人では、それは狂気なんかじゃなく、夜の魅力だと思うのだが──。



「は様。琴巴様」

「あ、ごめん。どうしたの?」

「いえ、特に何もありません。お考え事でしたか?」

「うーんまぁ、そんな感じかな。でも、どうでも良い事よ」


 本当にどうでも良い事に、耽け込んでいた。

 柊月の呼び掛けで、我に返ったものの。注意を払って歩かなかったせいで、何処を歩いているか検討がつかない。


「柊月、ここ何処?」


 何気なく柊月に聞いたつもりが、後になって思い出す。



「琴巴様、宜しいのですか? 場所当てゲームの最中ですよ。勿論、答えても宜しいですが。

モンブランは、柊月の物となるでしょう」


 クスクスと、柊月が笑う。やはりまだ年相応の、あどけなさが抜けきっていない。

 普段は、事務的な機械(おん)ばかり耳に慣れていて、一層に新鮮だ。

 

 私もつられて、頬が緩む。

 それにしても、わざわざ馬鹿正直に教えてくれるとは。


「迂闊だった。柊月とのマッチバトルだもの」

「ふふ。少し大袈裟かと」

「モンブランが懸かってるのよ!」

「そうですか」


 ツボに入ったみたいで、しばらく柊月は可笑しそうに笑い続ける。

 その間に、パッと答えて勝利を物にするかと、画策する。


 耳を澄ませる。


 ──うーん。

 ────あれ?

 ──────何も聞こえない?


 ..というか、耳の側から、人肌の温もりが感じる..こりゃ、耳を誰かさんに塞がれてるな。


「柊月の仕業だな」

「はい! その通りです」


 これが柊月の本性なのか。


「あ、制限時間が迫っておりますよ! 一、二、三」

「おいおい! 柊月ずるいぞ」


 遂に、小悪魔柊月が姿を現した。

 柊月の手を払い除けて、耳を今度こそはと澄ませる。


 ──クスクス。クスクス。


 ..あいつ笑いすぎだろ。

柊月の笑い声は避けて、他の音を探り出す。


 ────ギュイイ。ギュイイ。


 あった。鳴き声のように呻く、それは「かっこう」だ。


「かっこうの鳴き声がする」

「かっこう? あぁ、琴巴様が名付けた自動販売機君ですね」


 そう、かっこうはあの(かっこう)ではなく、私の名付けた自動販売機のこと。私のお気に入りの自動販売機で、その電子音が私には特別に感じるのだ。

 特別に感じるものには、名前を付けたくなるなんて、まだ私は子供みたい。



「..てことは、丸々(まんまる)図書館前だ!」

「大正解。琴巴様の勝ちですね」


 なぜか柊月は嬉しそう。

 モンブランは私の物となったのに。


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