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大佐

「ミリィ、ミリィ! どこにいる?」


 大佐の声が家の中に響き渡る。家はなだらかな丘のてっぺんにあり、見晴らしはよかった。家は木造の、古いつくりだが頑丈で、白い壁のペンキは年に一回塗り替えを続けられ、輝くように日差しを反射している。

 切妻屋根に、風見鶏が飾られた、古風な屋敷である。


「ミリィ! 返事をせんか!」

 ふたたび大佐の声が響き渡った。

 その声量は老人のものとは思えない。まさに響き渡る、といった表現がぴったりで、一キロ先まで届きそうだ。


 どすどすという荒々しい足音が聞こえる。

 ぬっ、と大佐の顔が二階の窓からつきだした。

 日に焼けた皺だらけの顔。ぐっと突き出た鼻に、まっしろな八の字髭が張り出している。げじげじ眉の下に、灰色の瞳の、おおきな目玉がぐりぐりと動いていた。

 老人はヘルメットをかぶっていた。旧式の、鉄兜だ。やせた身体は色あせた軍服につつまれている。


 大佐は二階の窓からあたりを見回した。丘のてっぺんに立てられている大佐の家からはステットンの町が一望に見渡せる。大佐がここに居を構えることにしたのも、町がひとめで見わたせることにあった。

 家の裏庭あたりに赤い髪の三つ編みがちらりと見えた。

「ミリィっ!」

 大佐は声をかぎりに叫んだ。

 ひょい、と女の子の顔が大佐を見上げた。

「なあに、お爺ちゃん」

「なにをしておる?」

「出かけるとこ……」

 そう答えると、ミリィと呼びかけられた女の子は一台のスクーターを引き出した。

 色あせた細身のジーンズに、赤い縞模様のボタンダウンのシャツ。スクーターは彼女の髪と同じ赤い塗装である。

 色白の彼女の顔にはそばかすが散らばっている。びっくりするほどおおきな瞳は茶色で、つんとしたちいさな鼻に、きりっと引き結んだ唇が赤い。


 ぐっと大佐は窓枠をつかんだ。

「またパックのところへ行くつもりじゃな」

 大佐を見上げたミリィの眉がひそめられた。

「そうだけど、悪い?」

 まともに問い返され、大佐はぐっと詰まってしまった。悪い、と言いたいのだがそうもいえない。

 ぶつぶつと大佐はつぶやきつつ、そっぽを向く。

「あやつに会うなら言っておけ。そろそろこっちに来るようにとな。仕事を頼みたい」

 ふうん、とミリィは唇のはしをかすかに持ち上げた。皮肉な笑みがうかぶ。

「まだ、あれを動かすつもりなの?」

 大佐の顔が真赤になった。

「わしの勝手じゃ! いいか、かならずうちによるよう伝えるんじゃぞ!」

 はあい、とミリィは答えるとスクーターにまたがった。アクセルを握り、エンジンを始動させる。

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