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スリップ痕
ばしゅっ!
「わっ!」
ハンドルを握る部下が叫んで急ブレーキを踏んだ。
ききききっ!
甲高い、悲鳴のような音を立て、パトカーは道路に横向きになった。スリップ痕がアスファルトに醜く筋を描く。
「どうしたっ! なぜ停まる?」
「パンクですっ!」
答えた部下に「なに」と口を開きかけた署長は、ふいに後部におきた衝撃に舌をかみそうになった。
ぐわしゃん、と派手な音がして、後続のパトカーが追突していた。助手席から首をつきだし、ふりかえると路面に衝突の残骸が散らばっているのを認める。
ドアを開き、署長は飛び出した。
パトカーの群れはつぎつぎと停止していた。
タイヤはパンクしていた。署長は地面に眼を落とした。
散らばっている鉄釘に気づく。ひとつつまみあげ、険しい顔になった。
ハンドルを握る警官たちは悔しさに唇を噛みしめている。
ばん、と署長は車の屋根を叩いた。
「くそっ! 汚いまねをしおって……!」
うらめしげに署長は道路の向こうを見つめた。
もう赤いスポーツカーは影もかたちもなかった。