感謝状
「おめでとう。これが感謝状だ」
複雑な表情でテレス署長はパックに賞状を手渡した。
パックは頬を染め、署長から感謝状を受け取った。
ばしゃばしゃばしゃ!
無数のフラッシュが感謝状を手渡されたパックを照らしている。警察本部には記者とカメラマンが集まっていた。
結局、パックはブロンド・キャリー一味逮捕に協力した善良な市民として話がついたのである。かれのロボットをキャリー一味が奪い、パックは命の危険をかえりみずロボットを奪い返し、キャリーの逮捕に貢献したということになったのだ。
本部の署長の部屋にはパックのほか、大佐、ミリィ、そしてパックの母親ルースの姿も見える。ミリィの祖父である大佐もまたおとがめなしと決まった。すべてめでたし、めでたしとなったのである。
感謝状を手にしたパックに向け、一同から拍手がまきおこった。
行事がおわり、パックは母親のルースとミリィと肩を並べて警察本部をあとにした。
本部前には大佐の車がとまっていた。
年代物の中古車である。
大佐が運転席に乗り込み、スターターを入れる。
後部座席のドアを開け、乗り込もうとしたパックはちょっとエンジンの音を耳にして首をかしげた。
「あの……大佐……」
ん? と、パックの声に大佐はふりむいた。
「なんじゃ?」
「なんだかエンジンの調子が悪いみたいだね」
パックの言葉に大佐は肩をすくめた。
「まあな、なにしろ年代物だからな。エンジンも調子が悪くなるさ」
ふうん、とパックは唇をとがらせた。
そんなパックにミリィは用心深く切り出した。
「パック、あんなことがあったのにまだ機械いじりがやめられないの?」
ミリィの言葉にパックはあわてて首をふった。
「そ、そんなことないよ」
言いながらドアをくぐり、席につく。
と、横に座っているヘロヘロに気づいた。
「ヘロヘロ! 無事だったのか!」
ふえー、とヘロヘロは首をまわした。
がくがくと首がすわらず、手足がうまく動いていないようだ。
「な、なんだあれから調子が悪くて……大佐殿のお世話も……でけまへん……」
運転席にすわった大佐はうなずいた。
「こいつも年代物だからな」
パックは腕を組んだ。
「それじゃおれがちょっと修理を……」
「パック!」
ミリィとルースが同時に声をあげ、パックをにらんだ。
うへっ、とパックは首をすくめた。
しかしパックはそっとポケットをさぐっていた。
ポケットから引き出したのは一本のスパナだ。キャリー一味のウッドの持ち物である。パックはひそかにウッドから貰い受けていたのだった。
スパナを握りしめ、パックはそっとヘロヘロに口をよせた。ミリィとルースに聞こえない小声である。
「なあ、おれに任せてくればお前の回路、直してやるぜ」
じろり、とヘロヘロはパックを横目で見た。
「本当でがすか? おらを元通りに?」
パックはにやにやと笑いかけた。
「ああ、本当さ! おれに任せな!」
「行くぞ! やっと家へ帰れる……」
大佐が声をかけ、アクセルを踏み込んだ。
自動車は走り出す。
パックはヘロヘロの背後にまわり、そのパネルを器用に外した。
内部の回路があらわになる。
そっと前の席のミリィとルースを見たが、ふたりとも気づいていないようだ。
回路をのぞきこんだパックの顔が輝いた。
すげえ……ロボットの回路ってこうなっているのか……!
こいつを直すにはあの配線と、この回路を繋いで……なんだ、簡単じゃないか!
ヘロヘロの修理を始めたパックの頭にはもう、なにも浮かんでいない。すぐに夢中になった。
かれの機械いじりは当分終わりそうになかった……。