ルース
署長の高笑いがとまり、ぼうぜんとなにかを見上げている。
その視線を追ったキャリーはぽかんと口を開いていた。
ひら!
ひら、ひら、ひら!
空中で何かが踊っている。
四角い紙片だ。
それは空中にいっぱいに漂っていた。
青空をバックに、紙片はあたり一面紙ふぶきのように舞っている。
地面近くに落ちてきたそれを一枚掴んだ署長は目を丸くして叫んだ。
「金だ! 紙幣だ!」
その通りだった。
空中に無数の紙幣が乱舞している。
「あたしらの金だよ!」
キャリーは大声をあげていた。
「なにがあたしらの金だ! お前らが現金輸送車を襲ったときの金だろう?」
署長に怒鳴られ、キャリーはしゅんとなっていた。
と、いきなり背後から湧き上がった喚声にかれらはびっくりしてふりかえった。
わあああ……
無数のステットンの町民が天を見上げ、手を舞い足を躍らせ、喚いている。
「金だ! 金が降ってきたぞ!」
口々に言い合い、さきをあらそって空中を漂ってくる紙幣を掴もうとしている。
「あっ、やめろ! それは盗まれた金だぞ!」
あわてて制止しようと署長が叫んだが、町民たちは聞いていない。みな夢中で降ってくる紙幣を手を伸ばし、掴み取ろうと必死である。
がちゃ、がちゃと音を立て、その場にいた兵士たちも手にした武器を地面に落としていた。
かれらもまた金を掴もうと手を天にあげている。
それを見た司令官は怒鳴った。
「やめろっ! みなもとの持ち場へ戻るんだ! やめんか、こら! 軍法会議ものだぞ……」
しかし聞いていない。
目をむきだし、口をぽかんと開け、一枚でも多く掴み取ろうとしている。
もう町民も兵士もない。全員いりまじり、われがちに紙幣を手にしようと争い合っている。それに警官も加わっている。
くそ! 司令官と署長は歯噛みした。
むむむ……! 司令官は腰のベルトから拳銃を引き抜いた。
空へ向けて数発、銃弾をうつ。
だーん!
だーん!
乾いた銃声が喚声にかき消される。
無力感に司令官はだらりと両手を下ろした。
「やれやれ……」
大佐は戦車からようやく地面に降りた。
あたりは騒然となっている。
天から落ちてくる札を一枚でも拾おうと、人々が群れ集まってくるのだ。
大佐はその中に入る気は毛頭なく、さてこれからどうすべきかとあたりを見回していた。
と、かれの視線がジープにとまった。
ルースの姿が目に入る。
彼女はゆっくりと地面に足をのばし、立ち上がった。
「奥さん……」
大佐は一歩、彼女に近寄った。
と、大佐の足がぎくりと止まった。
ルースの表情が険悪なものになっている。
それは怒りの表情であった。
すうーっ、と彼女は息を吸い込んでいる。
大佐の顔色が青ざめた。
大変だ!
ルースの奥さんが叫ぼうとしている!
大佐はあわててあたりを見回した。
ミリィとパックの姿が目に入る。
パックは泣いているミリィをなぐさめようとあれこれやっているが、ミリィは泣き続けているだけだ。
「パック!」
大佐は叫んだ。
ん? と、パックが顔を上げた。
大佐はルースを指さした。
「奥さんが、お前の母さんが叫ぼうとしているぞ!」
えっ、とパックはルースを見た。
母親は息を吸い込み、胸がふくらみつつある。
あっ、とパックは顔色を変えた。
ミリィに向かい喚く。
「ミリィ! 耳を塞げ!」
ミリィはパックの言葉にぽかんとしている。
パックはすでにじぶんの耳をふさいでいる。わけがわからないまま、ミリィはパックと同じようにして耳に両手をあてた。
それを署長も気づいていた。
ああっ、と署長も顔色を変える。
「みんな、ルースの奥さんが……」
え? と、札をとりあっていた町民が顔を上げた。
さっと全員の動きが止まった。
大変だ……。
ルースは口を開け、叫んだ。