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戦争

 大佐は戦車の操縦席に座り、ロボットを睨んでいた。

 ぐっとアクセルを踏む足に力が込められた。

 

 ぐおおおん!

 

 戦車のエンジンが唸りを上げた。

 まっすぐロボットへ向かっている。




 

「お祖父ちゃんの戦車につけて!」

 署長の背後からミリィは叫んでいた。

 運転席の部下はハンドルを握りしめ、唇を噛みしめた。

 ミリィがやろうとしていることは予感できた。しかしこんな少女がそんな大胆な行動をやろうとするとは、驚きだ!

 署長もおなじ思いだった。

 かれの視線はつい、ダッシュ・ボードのプラスチック・ケースにいく。封じ込められている一本のタバコ。

 指先がそろり、とケースにのびる。

 あわてて引っ込め、呪文のようにつぶやいた。


 禁煙中! 禁煙中……!


 パトカーはぐっと大佐の戦車に近づき、ついに併走した!

 ミリィは後席の窓から上半身をつきだし、腕をのばす。

 指先が戦車にふれる。

 ぐっとつきだした手がかりをつかみ、彼女はじぶんの身体を引っ張りあげた!

 どっとミリィは戦車の上へ乗りあがる。

 じりじりとそのまま戦車の前方へ移動していった。


「お祖父ちゃん!」


 叫んだ。


 祖父は気がつかない。

 戦車のエンジン音が邪魔しているのだ。




 それを署長ははらはらしながら見守っていた。


 いかん!

 大佐は気づいていない。

「前へまわれ!」

 署長は部下に命じた。

 部下はうなずき、アクセルを踏み込み、ハンドルをきった。

 パトカーは戦車の前方にまわりこんだ。

 戦車を操縦する大佐はそれを見て、あわてて進路を変える。

「邪魔するなあ!」


 怒鳴る。


 思わずブレーキを踏んでいた。

 エンジンの音がすこしだけ静かになった。

 その瞬間をねらって、またミリィが叫んだ。

「お祖父ちゃん、馬鹿はやめて!」

 その声に、大佐はぎょっとなってふりかえった。

 ミリィが戦車にはらばいになり、じりじりと操縦席へ近づいてくる。

「ミリィ、そっちこそ馬鹿なことをするでない! すぐ降りるんじゃ!」

 いやよ、とミリィは叫び返した。

「お祖父ちゃん、あのロボットに体当たりするつもりでしょう? そんなの絶対許さない……いいかげん、あきらめなさい。それに、軍隊が出動しているのよ!」

「軍隊……? 防衛軍か?」

「そうよ、署長が出動を要請したの。だからもう、お祖父ちゃんの出番はないのよ」


 大佐はぽかんと口を開けた。

「防衛軍? あれほどわしの戦車を止めようとした署長が、軍隊を呼んだのか?」

「お祖父ちゃんが戦っても、それは民間人だから正式なものじゃないんだって。わかる? お祖父ちゃんは軍人じゃないのよ。こんな戦車引っ張り出しても、だれもほめてはくれないのよ」


 大佐の口もとがへの字になった。

「わしは軍人じゃ! ステットンの町を守る……名誉ある……」

 あとは小声になった。

 うつむく大佐の肩に、ミリィがそっと手を乗せた。

「ねえ、もういいでしょう?」

 

 ぐあああん……!

 

 ふいに起きた轟音に、ふたりは顔を上げた。

 ロボットが突進してくるところだった。




 

 パネルから顔を上げたパックは、ロボットの進行方向に戦車が止まっているのに気づいた。

 やばい、このままじゃぶつかってしまう。

 もしかしたら、つまづいてロボットがひっくり返ってしまうかも……。


 おや、あれは誰だ?

 赤い三つ網の女の子……。


 ミリィだ!


「ミリィの奴、なんであんなところにいるんだ……」

 あっ、このままロボットがつまづけば、彼女の上へ倒れこんで……!

 冗談じゃない。

 パックのひたいにどっと汗が噴き出した。

 背後からキャリーが叫んでいる。

「ねえ、どうすんのよ? あたしたち、助かるんでしょ?」

 

 ばらばらばら……。

 

 頭上から騒音が降ってくる。

 見上げたパックは、軍のヘリコプターが近づいてくるのを見てとった。ヘリコプターのパイロットの顔すら見分けられるほどの近さだ。

 パイロットの唇がにやっ、と笑いに歪んだ。その手許が操縦桿のミサイル発射装置にのびた。指が引き金をひきしぼる。

 ヘリコプターからロボットに向け、ミサイルが発射される!

 

 しゅばっ!

 しゅばっ!

 

 うつろな音と共に、白煙をたなびかせ、ミサイルが宙を飛んでくる。

 

 どっかあん……!

 ずしーん……!

 

 ミサイルはまわりの民家に命中し、爆発を巻き起こした。

 爆風がロボットの歩行を揺らす。しかし止めるほどではない。

 進行方向のむこうでは、軍隊が道路を占領していた。

 ばらばらとトラックから歩兵が銃を手に飛び出してくる。地面に散開すると、バズーカ砲、RPGミサイル迫撃砲などをすぐに構え、こっちを狙っていた。

 その背後には装甲車、戦車がずらりと勢ぞろいしている。


 なんてこった!


 もう、これじゃ戦争そのものだ……。

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