司令官
ゆっくり、ゆっくりルースは歩いている。
もうすぐ町の中へ入るだろう。
町はロボットが暴れ続け、もうもうと砂煙がたっている。
ルースはちょっと眉をしかめた。
「まあまあ、これではお掃除が大変……」
つぶやく。
わあわあ……と、町の住民が悲鳴を上げ、ロボットから逃げ惑っている声が風に乗って聞こえてくる。
と、空から聞こえてくる異様な音に彼女は顔を上げた。
きいーん……
耳をつんざくような金属音。ついで、空気をどよもす衝撃音。
山の向こうから、一機の戦闘機が姿をあらわした。戦闘機は低空で町に近づくと、そのまま反転して今来た方向へかえっていく。
ぼうぜんとしているルースの前に、こんどは数機のヘリコプターが近づいてきた。
ヘリコプターはローターを回転させ、鼻先をそろえ飛行していた。
そのあとから数台の兵員輸送車、装甲車、戦車がつづいてくる。
ルースは立ちすくんだ。
ヘリコプターが町の近くの草原にそろって着陸していく。そのそばに、さきほどの車両がぞろぞろと集結していった。
「ステットンのひとですかな?」
だしぬけに声をかけられ、ルースはふりかえった。
見ると一台のジープが停車し、助手席にすわる大柄な中年の男がじっとルースをうかがうように見つめてくる。男は、ぴしっと折り目のついた軍の制服に身を包んでいた。肩には大佐の肩章がついている。
男はにやっと笑いかけた。
「これは失礼した。わたしは防衛軍郡司令官ワイト大佐ともうすものです。ステットンの町でロボットが暴れているという報告があり、出動要請があったのでやってきたのです」
ルースはふかぶかと頭を下げた。
「それはご苦労様です」
彼女の丁寧な挨拶に、ワイト大佐はちょっと拍子抜けしたようだった。
「あの……町でロボットが暴れている、というのは本当のことですかな?」
ルースはうなずいた。
「ええ、大変なことになりましたのよ。それでみなさんに迷惑をおかけすることになりまして……」
彼女の言葉をワイト司令官は聞きとがめた。
「どういうことですかな?」
「あのロボット、息子のパックが作ったものでして……」
「あなたの息子さん?」
「ええ、あの子ったら、むかしから機械いじりが好きで、ほっといたら何時間でも機械の前にすわりこんでいますのよ。それでとうとうロボットなんかこしらえて……」
そう言うと、ルースはふっとステットンの町を見やった。つられて司令官も町を見た。
町全体にうっすらと砂埃がまいあがっている。
そのとき、ジープの無線から報告があった。戦闘機のパイロットからだった。
「司令官! さっき町の上空を旋回したとき確認しましたが、たしかにロボットが暴れています! ひどい有様です!」
うむ、とワイト司令官はうなずいた。
ルースに向かい、話しかける。
「あなたの息子さんが作ったロボットが暴れているとおっしゃいましたな。わたしは穏便な解決を第一と考えております。それでですが、よろしければわたしどもと一緒に町へいらっしゃってくださいませんか? ロボットを停止させるために、あなたの協力が必要ですので」
ルースはうなずいた。
「ええ、仰るとおりです」
それでは、とワイト司令官はジープの後席に彼女を案内した。
手を挙げ、叫んだ。
「全軍、出発だ!」
司令官の号令の下、軍隊はステットンの町へむけ動き出す。




