弾装
弾装をのぞきこんで大佐はがっくりと膝をおった。
一発も残弾がない!
たった二、三発撃っただけで弾切れとはなんとも馬鹿らしい。これでは町を守るなどと大見得を切ったじぶんがなんとも恥ずかしい限りだ。
砲塔にもどった大佐は、暴れているロボットを見上げた。
なにも打つ手がないのか?
ただロボットが町を壊しているのをぼんやり見ているだけなのか?
いいや、あるぞ!
大佐はヘロヘロに命令した。
「ヘロヘロ! ロボットに突っ込め!」
はあ? と、ヘロヘロは首を捻じ曲げ、大佐を見上げた。
「そんでも大佐殿、戦車には弾がねえ、ちゅうこってすだ。弾切れのまま、どうやってあのロボットと戦うだね?」
大佐は喚いた。
「かまわん! この戦車をつかって、やつの足をとめてやる! これだけのおおきさだ。やつの足くらい、止められるさ」
ヘロヘロは無言で操縦席から抜け出した。
大佐はぽかん、と口を開けた。
「どうしたヘロヘロ? なぜ、操縦席から離れるんだ?」
「お断りしますだ。おら、まだ死にたくねえだよ! 死にたければ、大佐殿、勝手にすればええだ!」
むむむむ……! と、大佐の顔は怒りに赤く染まった。
「恩知らず! わしがお前をスクラップ寸前から救ってやったのを忘れたか?」
「そんでも大佐殿、おらずーっと大佐殿の身の回りのお世話をやらせていただきました。どんでもロボットに突っ込むちゅうなら、死ぬしかねえ。ということは、論理的におらのご奉公もおわり、ちゅうこってすな! だからもう、おらなんの関わりもねえ、と思いますだ」
そう言うとヘロヘロはにやにやと笑った。
ばん、と大佐は戦車の外板をたたいた。
「もういい! 貴様がそんな考えだとは思わなかったわい! ああ、なんということだ……わしがせっかくお前をスクラップの山から掘り出してエネルギーを入れたとき、お前はなんと言うた? このご恩は一生忘れません。これからは生きるときも死ぬときも一緒ですと、涙ながらに誓ったあれは嘘だったというのか?」
ヘロヘロは首をかしげた。
「おら、そんなこと言っただかね?」
大佐は砲塔から飛び出すと、ヘロヘロが抜け出した操縦席へ飛び込んだ。
「もう頼まん! わしが操縦する!」
アクセルを踏み込む。
ぐわああんっ! と、戦車のエンジンが咆哮した。
戦車は動き出した。
目の前を通過する戦車を見送って、ヘロヘロは頭に被ったヘルメットをはずし、つぶやいた。
「お達者で……」
「大佐の奴、なにをするつもりなんだ。戦車の弾はなくなったようだったぞ」
パトカーからそれを見ていた署長はつぶやいた。
後席から身を乗り出していたミリィは目を見開いた。
「お祖父ちゃん、あのまま突っ込むつもりなんだわ……!」
なんだと、と署長はミリィをふりかえった。
「馬鹿な! そんなことしても犬死じゃあないか!」
「止めなきゃ……」
ミリィはつぶやいた。
どうするつもりだ、と言いかけた署長にミリィは叫んだ。
「署長さん、お祖父ちゃんの戦車に車をつけて!」
おい、と署長は目を丸くした。
「まさか、きみ……」
ぐっと身を乗り出し、ミリィはふたたび叫ぶ。
「いいから、言うとおりしなさいよ!」
う、うむ……と、署長はうなずいた。
まるでこの娘、祖父とそっくりだ。