進発
「防衛軍に出動を要請したんですって?」
ミリィはあきれて大声をあげた。
テレス署長はばつの悪そうな顔になってうなずいた。
「ああ、これだけの騒ぎになったら、もうわしらではどうにもならんからな」
「そんな……あれほどお祖父ちゃんの戦車を止めようとしていたのはなんだったのよ! 軍がここにきて、あのロボットと戦ったらお祖父ちゃんの戦車一台なんかくらべものにならないくらいの大騒ぎになるわよ」
つるり、とテレス署長は顔を手でなでた。
ひどく汗をかいていた。
まったくミリィの言うとおりである。しかしほかにどうすればいいのだろう?
すくなくとも軍に出動を要請したということは、正式な活動ということだ。大佐の勝手な戦闘などではない。
ふと署長は制服のポケットを探った。
む、とかれの顔色がかわる。
キャンディーがない! 一本もなくなっている……。
くそ、こんなときに……。
テレス署長はなぜかじぶんをミリィのほか、なにかが見つめているような気分になっていた。
なんだろう?
なにかがじぶんを見つめている。
ちらちらとあちらこちら視線を動かして、それがダッシュ・ボードのプラスチック・ケースから来ていることに気づく。
ケースには一本のタバコが封じられている。
それが署長に誘惑の視線をなげかけているのだ。
署長は無性にタバコが吸いたくなっていた。
禁煙を誓ってから一ヶ月。警察本部で署長は禁煙を部下の前で宣言していた。部下たちは、署長がどのくらい禁煙を守っていられるか、賭けをしていた。
唇を舐め、かれは目をそむけた。
まだだ!
おれはまだ吸うわけにはいかん!
しかし自信はなかった。
ざっざっざっざっ……!
数十人の兵士の足音が聞こえている。
「全員乗り込め! ぐずぐずするな!」
軍曹の怒鳴り声が司令部の広場に響いている。
ぐおおん……、と兵士が満載されたトラックがつぎつぎと発進し、正門から出発していく。
ばたばたばた……。
ヘリコプターのローターが回転し、猛然とあたりの空気をかき回している。
きいーん、と甲高い音と共に、ジェット戦闘機が滑走路から飛び立っていった。
その騒然とした中を、司令官は悠然と歩いていった。
かれは満足だった。
日ごろの訓練の成果がいま目の前に展開している。
兵員輸送車、装甲車、戦車、戦闘機、ヘリコプター……つぎつぎとステットンの町へ向け、進軍していくのを目の当たりにし、かれの胸には誇らしい思いがこみあげてくる。
司令官専用のジープが待っていた。さっと部下が敬礼して司令官のためにドアを開く。かれは座席に腰をすえると、おもむろにマイクを握った。すでに出発した兵士たちも含め、かれの声は全軍に届くようになっていた。
「聞け! 現在、ステットンの町は一体のロボットにより危機に陥っている。ロボットを動かしているのは、凶悪な銀行強盗の一味である! 報告によると、その一味は銃器をそなえ、きわめて凶暴な性格らしい。われわれは市民の安全をまもるため、全力を尽くさねばならない!」
司令官の顔はだんだん紅潮してきた。
「出発!」
かれの号令の元、全軍は進発した。