ジェイク
「追いつかれちまうよ!」
後部座席でキャリーは焦っていた。
うおーん、うおーんと鳴り響くサイレンの音は狼の遠吠えに似て、神経に突き刺さる響きを持っている。実際には距離はそう詰まってはいないのだが、追われる身にとってはいまにも追いつかれそうに思われるのだ。
「ウッド、なにか手はないかい?」
キャリーはハンドルを握る背の高い男の椅子の背もたれに顔を近寄せた。どうやらハンドルを持つこの男はウッドというらしい。
ウッドは軽くうなずく。
となりのジェイクに顔を向けると、片手で上着のボタンをはずし、なかから一丁のマシンガンを引き出した。ジェイクに向かって顎をしゃくる。ジェイクはじぶんを指さした。
「おれが撃つのか?」
「当たり前だろ、あんたしかいないんだから!」
後部座席でキャリーが叫ぶ。
へいへい、とジェイクはウッドからマシンガンを受け取った。ずっしりと重く、手にすると鋼鉄のひやりとした感触がかれに力を貸し与えるようだ。
ジェイクは助手席の窓から上半身を乗り出した。風で帽子が飛びそうになるのを片手で必死に抑えつつ、マシンガンを構え、引き金を引き絞る。
たたたたたたん!
たたたたたたん!
軽やかなスタッカートと共に、マシンガンの銃口から銃弾が送り込まれた。
「うわっ!」
署長はちいさく叫んで首をすくめた。
アスファルトに銃弾が跳ね、ぴしっぴしっと煙があがる。
「署長、やつらあまり銃の腕はなさそうですねえ」
ハンドルを握る部下がのんびりと声をあげた。署長はひと声唸ってそれに答えた。
慌てることはなかった。部下の冷静さに、署長の頭にますます血が上る。
「くそお……舐めおって!」
かれのこめかみに血管がういた。