工具
ずしん、ずしん……。
震動がつきあげ、パックは目を開いた。
はっ、とあたりを見回す。
どうした、なにがあった?
戦車の砲塔が動いて、こちらに狙いをつけたところまでは憶えているけど……あとはまったく記憶にない。
がくん、とパックの肩に男の頭がもたれかかった。黒服の、やせた男である。そうだ、たしかこいつがロボットのハンドルを握っていたな……。男は、ゆらゆらと頭を震動にまかせ揺れている。どうやら気を失っているようだ。
あわてて背後をふりかえると、あの派手な感じの女も気を失っているのか、後席にからだをのけぞらせ、白いのどもとをさらし顔を天井に向けている。
「おい、ちょっと……あんた……」
パックは背の高い男をゆさぶった。
ゆさゆさと揺さぶられ、男はようやく気がついたらしかった。
真っ黒なサングラスがずれ、意外とちいさめの目がのぞいている。それに気づき、男はあわててサングラスを元に戻した。
「なにがあったんだい?」
問われて男はぶるぶると首をふった。なにもわからないらしい。
うーむ、とうめき声がしてぽっちゃりとしたほうが目覚めた。
はっ、と顔を上げあたりを見回す。
「どうした、なにがあった?」
パックは不機嫌に答えた。
「こっちが聞きたいよ。戦車がこっちを向いたと思ったらどかーん、だ……あっ!」
パックはぴしゃりと額を叩いた。
「そうだ、大佐のやつ、砲撃したんだ!」
「砲撃? 大佐? なんだ、戦争が始まったのか?」
「ちがうよ、大佐ってのはステットンの町にすんでいる……」
言いながらパックはどう説明したものかと思った。きっと大佐はこのロボットが暴れているのを見て、じぶんが乗り出すときが来たと考えたのにちがいない。そしてあの戦車を持ち出したのだ。
その戦車を組み立てのはじぶんである!
ずしん、ずしんと上下に揺れる動きに、パックは操縦席から身を乗り出した。
ロボットが動いている!
胸にはおおきく、へこみができていた。たぶん、ここに戦車の砲弾が当たったのだろう。
太ったほうがパックに顔をよせて口を開いた。
「おい、お前がこのロボット作ったって言っていたな。こいつを止めること出来ないのかよ?」
「お前、なんて言うな! ぼくはパックって名前があるんだ!」
むっとなって答えたパックに、男はちょっと鼻白んだようだったが、それでも機嫌をとるような口調になった。
「悪かったな、パック。おれはジェイクっていうんだ。そいつはウッド。後ろにいるのがキャリーの姐御だ。おいらたち、このロボットに乗り込んだのはいいが、勝手に動いて困っているんだ。あんたならなんとかなるんじゃないのか?」
パックは腕を組んだ。目の前のコンソールのパネルは外され、内部のメカがむき出しになっている。パックはそれを目にして、頭をかいた。
「なにしろまだ完成していなかったからなあ。回路もテストしていなかったし、まさか動かす人間がいるとは思わなかった」
じろりとジェイクとウッドを睨む。パックに睨まれ、ふたりは肩をすくめた。
その時背後のキャリーが目を覚ました。
「うるさいねえ……なんでこんなに揺れているんだい?」
きょろきょろとあたりを見回す。
まだロボットが動いていることに気づき、ぎょっとなった。
「まだ動いている! ここはどこだい!」
どうやら記憶に混乱があるようだ。
パックは彼女にふり向いた。
「どうやらまだロボットからは降りることができそうにないよ」
キャリーはあっ、と身をこわばらせた。
「あんた、確かこのロボットの……」
「パックって言うんだ。よろしく、キャリーさん!」
その言葉にキャリーはきっとなった。
「なんであたしの名前を……?」
「あっしが教えたんで……」
ジェイクが答え、キャリーはうなずいた。
「ふうん、そうかい。それで、こいつをどうやって止めるのかい? あんた、確かこのロボットを作ったって言ってたね」
「そうさ、そのロボットをあんたらがぼくに無断で動かしたんだったね」
パックはやりかえした。キャリーはちょっとほほを赤らめた。
「悪かったよ……追われていたんでね」
「ふうん、追われているって、パトカーにかい? ってことは、おばさん悪人だな!」
キャリーは怒りに我を忘れそうになったが、それでもじぶんを押さえたのはあっぱれだった。猫なで声になると、話しかけた。
「ああ、あたしらは善良な市民ってわけじゃないよ。でも、こんな騒ぎになってあんただって困るんじゃないのかい? なんとかこのロボットを直して、この町から脱けだすことはできないかい?」
パックはうなずいた。いま、警察につかまると困るのはおなじだ。
「なんとかやってみる……さっきの砲撃で、回路がどうかなっちまったみたいだけど、こいつはおれの最高傑作になるはずだったんだ! なんとしても、直してやるさ」
そうつぶやくとコンソール・パネルに顔を突っ込み、工具を手にとった。