攻撃
「ふうむ、あやつめ身動きが取れんと見える……」
双眼鏡を目にあて、大佐はつぶやいた。
戦車は町のせまい路地を無理やり押し通り、そのため車体に接した家の壁は無残にへこみ、あるいは亀裂がはしっている。住民は戦車の騒音に気がつき、窓から顔を出してこのありさまに驚き、大佐に抗議したが老人はまったく意に介さなかった。
砲塔から大佐はにんまりと笑った。
「チャンスじゃな……あやつが身動きとれんいまこそ、砲撃のチャンスじゃ!」
大佐は身を乗り出し、操縦席のヘロヘロに叫んだ。
「ヘロヘロ! まっすぐあのロボットに向かえ!」
へえーい、とあいかわらず間延びした返事をしてヘロヘロはアクセルを踏み込んだ。
大佐は身をかがめ、砲塔を廻すハンドルに手をかけた。砲塔はなめらかに旋回し、砲身がロボットの胸にと狙いをつける。
それを見て、あとから追いかけてきた市民たちは立ち止まった。
「大砲が動いているぞ!」
「なにをするつもりなんだ?」
みな危険を感じ、立ち止まったまま見つめている。
大佐は引き金を引いた。
どっかあーん!
ものすごい音がして、砲身からしろい煙りが上がった。
わっ、と見守っていた人々はいっせいにひざまずいた。
「大佐め! 射ちおった!」
署長は顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
大佐の戦車から砲撃の音がして、ロボットの胸に砲弾が命中した!
もくもくとロボットの全身は砲煙につつまれ、いっときあたりはなにも見えなくなってしまう。
「どうなった、ロボットは……?」
火薬の鼻をつんと刺すような臭いに、くしゃみを連発させながら署長は叫んでいた。
やがて白煙が薄れていった。
!
署長は目を丸くして、口をぽかんと開けた。
ロボットは無事であった。
胸にへこみができているが、それでも倒れることもなく、すっくと立ち続けている。
ゆらり……。
ロボットが片足をあげた。
ずしん!
重々しい足音と共に、ロボットはゆっくりと動き出した。
はらはらとロボットの動きを止めていた網の残骸が地面に落ちていく。
大佐の攻撃は、ロボットを身軽にしただけであった。
くそお!
署長は怒りに満ちて拳をパトカーのドアに叩きつけた。
ミリィは心配していた。
パックは無事だろうか?




