網
パトカーが石畳のむこうに二台、停まっている。となりには警官が、緊張した表情で道路のを見つめていた。
ロボットの進行方向に先回りして、なんとかその足取りを止めようというのだ。
「来るぞ……」
警官のひとりがつぶやいた。
立ち並んでいるふるい家々の向こうから、どすどすというロボットの足音が近づき、震動で屋根瓦がかちゃかちゃと音をたてている。さっと警官たちはパトカーのもの入れからバズーカ砲のようなものを取り出した。肩に担ぎ、狙いをつける。
ぬっ、と屋根のむこうからロボットの頭部が顔を出した。ずしん、ずしんと地面をふるわせ、ロボットは狭い通りを無理やり進んでくる。肩先が家の軒にふれ、屋根瓦が数枚地面に落ちていく。バズーカ砲をかまえたふたりは、じっと待ち受けた。
ロボットがひろい通りに姿をあらわした瞬間、ふたりの警官は引き金をひいた。
ばすっ、と音がして、バズーカ砲の筒先からなにかの塊のようなものが飛び出す。塊は宙でひろがり、網目状になった。
どさっ、と網はロボットの頭上から全身にかけて覆いかぶさった。同時に網のさきから鉄の槍がとびだし、地面につきささる。がくん、とロボットの足が止まった。
「やった!」
警官は満面の笑みになった。
網が全身にからまり、ロボットの動きはにぶくなっている。それを見て、ひとりがパトカーの無線のスイッチを入れ、マイクを口にあてがった。
「署長! 成功です! ロボットの動きはとまりました!」
スピーカーから署長のはずんだ声が響く。
「そうか! 効果があったんだな?」
「ええ、良い考えでしたね。暴走車を止めるためのものでしたけど、ロボットにもきくとは思いませんでした」
発射したのは暴走車を停止させるための強靭な網である。網をからませ、暴走する車を強制的に停止させるものだ。テレス署長は、この装備をふたりに使わせることにしたのだった。
手足に網がからまったロボットは、動けなくなりむなしく唸り声のような音をたてている。ぎゅーん、ぎゅーんとモーターが空転して、全身が震えだした。
そこへテレス署長の乗ったパトカーがやってきた。署長は窓から顔をつきだし、ロボットを見上げた。
「おお! うまくいったか!」
そう言ってにんまりと笑った。
後席からロボットを見上げたミリィは頭部の操縦席に目をとめ、あっと叫んだ。
「パック……」
ん、と署長はミリィにふりかえった。
「パックとは、あの男の子かね? 大佐の家の近くに住んでいる親子か?」
ミリィははっ、と口を押さえた。
じろり、と署長は操縦席を見上げる。
ひとりの少年がハンドルを握り、網からロボットを解き放とうと悪戦苦闘していた。
「ふむ、たしかにパックだな。いったい全体、あんなところでなにをしているんだ?」
ミリィを見る。
署長はやさしく尋ねた。
「ミリィ、お前さんなにか知っているんじゃないのかね?」
ミリィはうつむいてしまった。
パックがあのロボットを組み立てた、なんて言えるわけない。
その時、地面から響いてくる震動にふたりは顔を上げた。
なんだろう、とミリィは路地を見つめた。
あっ、と驚きの声をあげる。
戦車がやってきたのだ!




