サイレン
すとととと……スクーターは軽快なエンジン音をたて、納屋から遠ざかる。すっかりスクーターが見えなくなってから、納屋の物影から人影が姿を現した。
キャリーだった。
きょろきょろとあたりを見回したキャリーは、くいっと指先を立て、それを何度か折り曲げ誰かを差し招いた。
かさこそと音を立て、近くの茂みから姿を現したのはジェイクとウッドのふたりである。ふたりは背中に銀行輸送車から奪った金袋を背負っていた。ひょこひょこと踊るような足取りで、ふたりはキャリーに近づいた。
「姐御、どうやら警察はまだ追いついてはいないようですね!」
呑気に声をあげたジェイクの口を、キャリーはあわてて手を伸ばして塞いだ。
「しっ! 大声出すんじゃないよ……しばらくこの納屋に身を隠そうと思ったけど、中に誰かいたみたいで待っていたんだ。ようやくそいつらがずらかって、ほっとしていたんだ。いまなら誰もいないから、この隙に中に入ろうじゃないか」
へえい、と返事をしたジェイクはウッドと共に納屋に足を踏み入れた。
「姐御っ! ちょっと来てくだせえ!」
ジェイクの大声に、なんだね、騒がしいねえとつぶやきながらキャリーはあとにつづいた。
納屋の暗さに目がなれた彼女は、ぎょっとなって立ち止まった。
「な、なんだいこれは!」
見上げた先、パックの造り上げたロボットを目にしたキャリーはおもわずあとじさった。
「ロボットでさあ。こんなところに、思いがけないこって……」
キャリーはうずくまるロボットの頭部に目をやった。
「ふうん、どうやら人が乗れるようになっているようだねえ」
ロボットの頭部は座席になっていて、人が乗り組めるようになっている。中古の自動車からひっぺがしたらしきシートが取り付けられ、運転席になっている。キャリーはウッドに顔を向け口をひらいた。
「ウッド、あんたたしかロボットの運転免許を持っていたはずだね?」
うなずいたウッドは器用にロボットの身体にとりつき、頭部へよじ登った。シートに落ち着くと、運転席を点検する。やがて納得いったのか、満面の笑みを浮かべると、指先でOKのサインをつくった。
それを見たキャリーは口元をほころばせた。
「車がおしゃかになったときはどうなることかと思ったが、運が向いてきたみたいだねえ……」
ジェイクはぎょっとなった。
「姐御、まさかこいつを……」
「ああ、頂こうじゃないか。こいつなら警察なんか目じゃないよ!」
そのときキャリーの耳に遠く、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
はっ、となった彼女は納屋の扉にかけつけ、隙間に顔をおしあてた。
ぎらぎらと旋回するパトカーのライトが目に飛び込んだ。
警察が到着したのだった。